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リクエスト④ ご機嫌ナナメ 2
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「あーぁ、暇だな…」
突然ぽっかりと空いてしまった時間に、退屈を持て余す。
「別にいいもんね。デートがなくなったんなら、テレビとか見てのんびりするもんね…っ」
ブツブツと呟く独り言は、あまりに虚しくリビングに響いた。
「バカ火宮。鬼真鍋。ドタキャン火宮。悪魔真鍋」
嘘、だ。
本当はデートに行けなくなったのが平気だなんて、真っ赤な嘘。
俺から火宮を攫っていった真鍋も、それについて行ってしまった火宮にも、本当はムカつく。
ムカついて不満でしょうがない。
「だって前から言ってたのに…」
今日は1日火宮を独占して、たくさん笑い合ってたくさんお喋りして。
あちこち出かけて、色々見て回って。
2人で一緒にいる時間をたっぷり満喫するはずだった。
なのに。
「もぅっ、ふて寝してやる」
苛立ちが最高潮に達した俺は、バタバタと寝室に向かって、ベッドに飛び込んだ。
「火宮さんのバカぁ」
ボスッと顔を埋めた枕から火宮の匂いがする。
「っ…」
きゅぅっ、と苦しくなる胸が悔しくて、俺はその枕をボンッとドアに向かって投げつけた。
そうしてどれくらいの時間、不貞腐れていたのか。
ふと、リビングの方に人の気配と足音を感じた。
「っ!」
帰ってきた!
パァッと明るくなった気持ちは、その足音が2人分だと気づいた時点で萎んで消えた。
「なんで真鍋さんまで来てるの…」
そろりとベッドを降り、ドアに向かって、薄く開けたそこから、2人の会話を盗み聞きする。
「…お手数をおかけします」
「構わん。書類は向こうだ、取ってくるから待っていろ」
スッと移動していく火宮の気配が書斎に消える。
俺に「ただいま」の前に仕事の話を続けているのか…。
俺のことなんて忘れてしまったのかな、って寂しくなる。
「ついでにこれも処理してしまうか」
「助かります」
え?
書斎から戻って来た火宮が、何やら余分な書類まで持って来た様子で…。
なんで?
俺とのデート…。
急ぎの仕事なんだったら仕方がないって思ったのに。
必要最低限で済ませて帰ってきてくれるって思ったから我慢しようとしたのに。
「バカ火宮ぁぁっ」
ムカッとなった俺は、落ちていた枕を引っ掴んでリビングに飛び出していた。
そのまま勢いで、枕を火宮に投げつける。
「翼?」
「翼さん?」
ひょいっと簡単に枕を避けた火宮と、咄嗟に火宮を庇うように前に出た真鍋が、不思議そうな顔をして俺を見ていた。
「もう嫌いっ!火宮さんも真鍋さんも大っきらい!」
勢いが止まらないまま叫んだ俺は、そのまま走ってリビングを横切り、鍵がかかる脱衣所に飛び込んで籠城を決め込んだ。
「おい、真鍋」
「はぁっ。まぁ、それはお拗ねになられますよね…」
「参ったな」
嫌いなんだから。
デートをドタキャンする火宮も。
デートだって分かってて仕事を持ち込んでくる真鍋も。
「翼。翼」
ドンドンとドアを叩かれたって、開けてなんてあげないから。
ドアに寄りかかって床にしゃがみ込み、膝を抱えて丸くなる。
「翼さん、会長をお借りしてしまって申し訳ありませんでした。もうお返しいたしますので」
知らないし。
今更そんなこと言われたって、もう午前中はほとんど潰れた。
「はぁっ、翼。なんでも好きなものを買ってやる」
はぁ?
ものに釣られると思ったら大間違いだから。
「翼さん、なんなりとお好きなお食事をご用意いたしますよ。リクエストのお店をお教え下さい」
食べ物にだって釣られるわけないでしょ。
「翼、ここを開けろ。欲しいものがなければ、したいことを叶えてやる」
嘘つき。
今日は1日、デートしたかった。
「翼さん、出て来て下さい。ご要望を何なりと承りますから」
もううるさい。
そんな見え透いたご機嫌取りになんか、絆されるわけがないでしょ。
ぎゅっと身を小さく縮めて、俺は両手で耳を塞いだ。
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