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鬼の霍乱 2
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「お見事」
瞬時に真鍋の側まで走った火宮たちは、目に見えないほどの素早さで、真鍋を囲んでいた男たちを、次々に地面に沈めて行った。
相手が武器を持っていようがお構いなし。
流れるような拳や蹴りを、綺麗に鮮やかに決めて行く。
夏原が黙って見守るその視線の先で、ものの数秒で、火宮たちの完全勝利が決まった。
「クッ、大丈夫か?真鍋」
ガックリと地面に膝をつき、片手も下につけた真鍋が、その手で身体を支えるように蹲り、息を荒くしている。
「ッ、申し訳ありません、お手間を取らせまして…ッ」
「それは構わん。が、真鍋?」
「すみません…。ちょっと、触れないで、いただけ、ま…す、んっァッ…」
はぁっ、はぁっと荒い息を吐く真鍋は、決して立ち回りで疲れているわけではなさそうで。
「おまえまさか」
「能貴っ!」
火宮が助け起こそうとした手をピクリと止めたところに、夏原がパタパタと駆け寄ってきた。
「能貴!大丈夫っ?」
「はっ、な、んで、あなたが…」
ジトッと火宮を睨み上げる真鍋の目だが、そこにはいつもの冷たさも鋭さもない。
「真鍋、おまえ、媚薬…ドラッグか」
「ドラッグっ?!能貴っ」
「す、みませっ…油断、して打たれ…。触るな!」
焦って伸ばされた夏原の手を、真鍋がパシッと振り払った。
「痛ったぁー。酷いなぁ、もう」
「ふっ、打たれたとはまた穏やかじゃない。静注だということは、相当強力なものだぞ」
違法のな、と笑う火宮は、それでよく理性と正気を保っている、と真鍋を尊敬したように見つめる。
「ちょっと会長、それって笑いごとじゃない…」
「まぁな。普通ならとっくに快楽の虜になっているか、発狂していてもおかしくない」
さてどうするか、と首を傾げる火宮の周りでは、池田がさっさと潰れた敵たちを片付けて歩いている。
「どうするって、そのドラッグ、媚薬に近いものなんですよね?」
「真鍋がそういうならな」
「ならば解毒の方法は1つでは?」
コテンと首を傾げる夏原に、真鍋の顔が目に見えて青褪めた。
「っ、私のことはお構い、なくっ。この、ていど…自力でなんとか、しま、す、から…」
捨て置け、という真鍋に、火宮の目が眇められる。
「自力でね。そんなレベルの薬じゃないことはおまえも承知だろう?セフレか口の硬い商売女を呼んでやる」
「どちらも不要、で、っ…ッ、ぅん」
はぁっ、と熱く息を吐いた真鍋の腕が、ガクッと力をなくし、その身体が地面に伏した。
「能貴っ!」
「ふっ、今からの手配では、真鍋が保たないな…」
これはさすがに、と、火宮にも焦りが浮かび始める。
さすがの精神力だが、真鍋の限界は、本当はとうに超えている。
それでもまだ、快楽に逆らい、欲望に呑み込まれるのを止めているのは、真鍋の化け物じみた自制心でしかない。
「仕方がない…。確か元売り専上がりの、腕を見込んで拾われた部下が1人ついてきていたはずだ」
そいつに相手をさせる、と、池田を振り返った火宮の行動を、夏原が止めた。
「待って下さい、会長っ!」
「何故だ」
「駄目ですよ、会長。今の能貴じゃ、そのお相手を壊してしまいます」
理性のタガが外れた真鍋の相手が、並みの人間に務まるわけがない。
「分かって、いる。だが、いくら冷酷と罵られようが、悪魔と呼ばれようが、俺にとって真鍋の精神を壊さずにいることは、1部下の身体より…」
「ストップ、会長。それ以上は仰らないで下さい」
「夏原…?」
それがどれほど重い覚悟の上での言葉なのか、夏原はちゃんと理解する。
理解するから、夏原はグッと腹に力を入れて火宮を見据えた。
「っ…俺が」
ぎゅっと拳を握り締めた夏原が、真っ直ぐ火宮に視線を合わせ、静かに言葉を続けた。
「俺が、相手になります」
覚悟を決めた目をして、揺らがぬ光をその目に宿して、夏原はきっぱりと言い切った。
「だから会長は、1部下を右腕のために切り捨てるなどという酷な選択をなさる必要はありません。それでいて能貴も失わせはしません」
「夏原…」
「大丈夫ですよ、俺がちゃんと、能貴を取り戻しますから」
にこりと微笑む夏原が、バサリとスーツの上着を脱いで、そっと真鍋の頭の上に被せた。
「能貴を、ちゃんと蒼羽会幹部、真鍋能貴として、お返しします。だから今は俺に、預けて頂けませんか?」
ふわりと再び柔らかく微笑んだ夏原に、火宮の目が薄く細められた。
「おまえに預けて、いいのか?」
それは真鍋を傷つけることも、夏原を苦しめることにもならないか?と火宮は問う。
「むしろ俺以外に預けられたら困ります」
真鍋を傷つけることにも、自分が苦しむことにもしない、と夏原は断言する。
その目のひたむきな真摯さに、火宮の顎がゆっくりと引かれた。
「おまえを信じる」
「ありがとうございます」
はぁ、はぁ、と、もう息も絶え絶えに悶えるしかできない真鍋を抱え上げ、夏原はその顔を隠すようにスーツの上着で覆ったまま、外へ向かって歩き出した。
「1番近いホテルまで、車をお借りします」
「あぁ。待機している1台を使え」
「ありがとうございます」
ゆったりと頭を下げた夏原は、壊れ物を扱うように、大事そうに、真鍋を運んで倉庫を出て行った。
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