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鬼の霍乱 5
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スゥスゥと穏やかな寝息が聞こえる。
夏原は、イキまくって疲れ果てて気絶してしまった真鍋の寝顔を眺めながら、ホーッと一息ついていた。
「本当、綺麗な顔」
男に対してその形容が適しているのかどうなのかは分からないが、真鍋の顔はゾクリとするような冷たく整った顔立ちをしている。
「この目が次に開いたとき、一体どんな顔をするのかな」
サラリと綺麗な黒髪を撫でて、夏原は愛おしそうに目を細めた。
「悔やまなくていいよ。嫌がる能貴を無理やり堕としたのは俺だから」
きっと薬の欲望に負けて、乱れた自分を責めて凹んで、これでもかというほど後悔に身を焦がすだろう。
誰より聡い真鍋だから、夏原がどんな思いで解毒に協力したのかもきっと分かっている。
「能貴…。俺は約束は守るから」
チュッと眠る真鍋の額に軽く口付けを落として、夏原は心に決めた覚悟を実現すべく、そっとベッドを下りてソファに向かった。
「んっ…」
ごそっと衣擦れの音がして、真鍋がゆっくりと目を覚ました。
「わ、たしは、一体…」
ゆっくりと身体を起こしながら、真鍋はガンガンと痛む頭を抱えて、辺りを見回した。
「ッ!…な、つはら、先生…」
ソファでグッタリと眠り込んでいる夏原を目に入れ、真鍋の身体がビクリと明らかに強張った。
「っ…私は」
うっすらと頭に残る、夏原の声や感触、自分が乱れ、悶えた記憶。
「やつらに薬を注射され…」
何をした、と頭を抱える真鍋は、ふと自分の身体を見下ろして首を傾げた。
「乱れて、いない…?」
見れば服は、上着とベルトこそないものの、ワイシャツをきっちりと着込んだ姿で、ベッドやシーツにも何の汚れも見当たらない。
「夢か?幻覚か…?」
いやまさか、と両手を開いて、その手のひらを見下ろす。
確かにその手に、夏原の熱を握り込み、欲で濡らした感覚が残っている。
「私は…」
「んーっ、んんっ」
ふぁぁ、と大きな伸びをして、不意に夏原が目を覚ました。
「っ…」
ビクッと明らかに飛び跳ねた真鍋の身体に、夏原がコテンと首を傾げた。
「あー、起きてた?おはよう、能貴」
「ッ、お、はよう、ございます…」
「うわ。なんかいいね!目覚め1番が能貴のおはようって。やばい、能貴、同棲しよ」
にかっ、と無邪気に笑う夏原が、スタンッとソファから下り立って、どう?と悪戯っぽくウィンクした。
「お断りします」
「ふはっ、相変わらずクール。そこがたまらない」
無邪気に笑う夏原に、真鍋の顔がぐしゃりと歪んだ。
「っ、まったくあなたは…あな、た、はっ…」
ぎゅう、と辛そうに眉を寄せた真鍋が、ギリッと奥歯を軋ませた。
「私はあなたに…」
「んー?あっ、ごめん」
「え?」
「昨日さ、ちょっと寝付けなくてお酒かなり飲んでね」
「っ…」
「なんか、記憶がまったく残ってないんだけど。能貴、どうかした?俺、まさか何かしちゃってないよね?」
ごめんね、と笑う夏原が、馬鹿みたいに酒に強いことを真鍋は知っている。
どれほど飲んだって、記憶をなくすほど酔い潰れることなどないと、知っている。
しかも近づいてきた夏原からは、アルコールの残り香など一切しない。
「っ…あな、た、は…」
「ふふ、能貴。好きだよ」
「っ、寝言は、寝てから…言いなさい」
ぐしゃりと歪む真鍋の顔には、いつもの冷たい切れ味がなくて。
それでも普段通りに振る舞おうとする真鍋は、夏原の想いにちゃんと気づいていた。
「うーん、クール。その冷たさがたまらない。ねぇ能貴、やっぱり俺と付き合って」
「お断りします」
「通算217回目」
クスクスと楽しげに笑う夏原に、真鍋の今にも泣き出しそうな切ない目が向いた。
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