アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
リクエスト⑤ 風邪2
-
「あ。火宮さん…」
事務所の方が病院に近かったのか。
俺がロビーに着いたときにはすでに火宮が待っていた。
「翼、熱を出したって?」
「えっと、微熱ですよ?微熱」
ここは意地でも軽症を装おう、と目論んだ俺のデコに、火宮の手が伸びてくる。
「真っ赤な顔をして、潤んだ瞳で何を言う。浜崎?」
熱いぞ、と眉を寄せた火宮が、後ろに付いてきていた浜崎に視線を流した。
「はっ、はい!伏野さんのお熱は9度7分ありましてっ…」
「………翼?」
「えへ」
ジトッと疑いの目を向けられて、俺は愛想笑いを浮かべるしかない。
「微熱ね」
「あは」
へらっ、と首を傾げたら、コツンと拳骨が降ってきた。
「馬鹿者」
「う…」
「ほら来い」
嘘つきめが、と目を細め、「治ったら仕置きだぞ?」と呟きながら、グイッと腕を引かれて、診察室らしき方へと引き摺られていく。
「ちょっ、待っ、火宮さんっ?順番とか…」
待合ロビーには、患者がいっぱい待っているみたいだけど。
「そんなものいるか。うちのお抱えだぞ。おまえが最優先に決まっている」
「わー、すごい、横暴」
さすがはヤのつく暴れるサークル様。
裏口診察もお手の物か。
「まぁ無保険の俺も病院にかかれちゃうしね…」
大抵は保険証がない人間は、支払いの関係で嫌がられるのに。
「あぁ、保険なんて概念があったな」
忘れていた、と笑う火宮はどこか非常識で。
「どうせ治療費など全額実費を支払える。そもそも俺たちも、表に出したくない怪我などはすべて実費でやってる」
「あー」
銃創や刃物傷とかって?
こういうところで、この人はヤクザだったんだよな、って思い出す。
「ほら入れ」
1つの診察室前に辿り着いた火宮が、ノックもなしにガラッとドアを開けた。
デスクとその前の壁についているシャウカステン。診察椅子には白衣の男性、その前には患者用の回転式の丸椅子。
ごく普通の診察室の景色が目の前に広がり、勝手に怯む心に腰が引けた。
「おい翼」
「う、はい…」
「まさか医者が怖いとか言い出すなよ?」
思わず立ち止まった俺に気づいたか、火宮がジロッと見下ろしてくる。
「いや?怖くはないですよ?」
苦手なだけで。
「ならさっさと入れ」
トンッと背中を押され、フラフラと診察室内に入ってしまう。
当然のように後から入ってきた火宮がドアを閉めたのを見て医者が苦笑した。
「まぁ、あなたの横暴は今さらですけどね。で?今日はどうしました?」
患者はどっち?と首を傾げた医者に、ズイッと俺が押し出された。
「こいつだ。熱が9度7分ある」
「発熱ね。はい、じゃぁそこに座って。名前と年齢、他の症状は?」
にこりと微笑む医者に促され、俺は渋々丸椅子に座る。
火宮がまたも勝手に近くの椅子を引き寄せ、ドカッと座っているのに苦笑してしまう。
「翼、ちゃんと説明しろ。ちゃんとな?」
暗に症状を軽く言うな、って。
「うぅ、伏野翼、16歳。熱と、頭痛と寒気。目眩と吐き気…」
ポツポツと話す俺の言葉を、医者がカタカタとパソコンに入力していく。
「喉の痛みは?」
「少し」
「鼻水」
「軽く」
「息苦しさや咳は」
「特にないです」
カタカタとキーボードを打つ音が、やけに大きく耳に響く。
「分かった。ちょっと胸の音を聞かせてもらうね」
「必要以上に触るなよ?」
「………」
微妙な苦笑を医者が火宮に向け、俺は思わず、馬鹿、と呟いてしまう。
「中にTシャツ着てるの?じゃぁその上からでいいよ」
おっかない監視がついてるからね、とウインクする医者に、何だか恥ずかしくて熱が余計に上がる。
「もう…火宮さん、出てて下さい…」
「駄目だ。診察と言って、翼がセクハラされないかをちゃんと見張っている」
「ちょっ…」
「しかもおまえが身体を触られて感じたりもしないか、ちゃんとチェックしているからな」
「なっ…バカ火宮っ!」
ニヤリじゃないよ。
何わけわかんないことを言ってるわけ!
「はいはい。熱が上がるからその辺で。ちょっとじっとしていてね」
そういえばこの人、俺と火宮の関係は知っているし、火宮の趣味嗜好、俺に対するアレやコレも、しっかり知り尽くしているんだった。
前に火宮が入院したときも、診たのはこの先生だったっけ。
シラッと診察を始める医者に、恥ずかしいのは俺だけって…。
「おい、乳首が立ってきているぞ」
「はぁっ?立ってないですっ!」
「こら。心拍数が上がるから静かにしてて」
しかも音聞くのに邪魔、と怒られる。
「なんでビクつく」
「ついてないし」
脇腹の辺りに移動した聴診器がくすぐったくて、微妙に跳ねた身体まで見てなくていいから。
「だからうるさいってば、きみたち」
「火宮さん!」
「はい背中」
くるーっ、と椅子を回されて、今度は背中に聴診器が滑る。
「んっ…」
「翼、喘ぐな」
「はぁっ?喘いでないですからっ!」
もう誰かこの人どうにかして…。
見えない場所に不意に触れた聴診器に呻いただけで、なんでそうなる。
「はは。相変わらず溺愛されているね。うん、いいよ。少し雑音ね」
前向いて、と戻される椅子に、クラクラと目眩がした。
「おっと、大丈夫?」
「翼っ」
くらぁ、と傾いだ上半身を、慌てて火宮に支えられる。
「っ、誰のせいだーっ!」
決して熱のせいでフラついたわけではない俺は、思わず火宮を睨んでいた。
「クッ、潤んだ目でそんな風に見つめて…誘っているのか」
「なっ…」
馬鹿なの?この人…。
あまりの身勝手な解釈に呆れて、思わずポカンと口が開いた。
「あぁ好都合。そのまま開けてて。喉診るから」
あぁこの医者もよく動揺しないな…。
1人だけワタワタと振り回されているのも馬鹿らしくなって、俺はもう一切の反応をやめた。
実際、多分熱が上がって来ている。
もう何も反応する気力が湧かずに、ボーッとする。
「うん。まぁ、風邪症候群。いわゆる普通に風邪だろうね。食事は取れてる?」
「いいえ」
食べてないし、食べる気もしない。
「とりあえず解熱剤は出しておく。それから栄養剤の1本でも打っておこうか。後は食べられるようなら食べて寝て。水分だけはちゃんと取ること」
「っ…」
1本って、注射だ…。
「食べられない、飲めないが続くようなら点滴。熱が高すぎて辛いときだけ解熱剤を使ってね」
じゃぁ処置室へ、と微笑む医者に、俺はブンブンと首を振った。
「注射はいりませんっ。痛いの嫌ーっ!」
あぁぁ、首を振ったらますます目眩が…。
「翼!ったく、ガキかおまえは…」
うっかり椅子から落ちかけた身体を、火宮にガシッと受け止められる。
「あぁちょうどいいね。火宮さん、隣の部屋にそのまま連れて行って下さい」
「あぁ。それと先生、解熱剤は座薬にしろよ?」
「はいはい」と苦笑している先生の声がどこか遠くに聞こえ、身体がゆらりと浮き上がる感覚があった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
46 / 233