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リクエスト⑤ 風邪3
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「嫌っ!待って下さい!離してっ、火宮さんっ」
隣の処置室とやらに運ばれて、ベッドの上に下ろされた俺は、全力で抵抗していた。
「こら翼、暴れるな」
「だって嫌です。注射はいりませんからっ」
ジタバタともがくけれど、熱が高い今の状態で、俺に出せる力なんてたかが知れている。
火宮が軽く押さえてくる手にすら逆らえない。
「じんー、お願いー」
離して、と潤んだ目を向けて媚びてみる。
ペロリと舌舐めずりした火宮の手が離れていく……かと思ったら、何故かますます力が増した。
「注射ごときに怯えるその姿が…そそるな」
「はぁっ?」
このどS。
そのどこに性感を刺激する要素があるんだ。
「クスクス、本当、うるさいね、きみたち。はい、手出して、腕まくりして」
銀色のトレイに注射器と容器を乗せてきた医者が、椅子に座る。
それを見た瞬間、きゅん、と心臓が縮んで、腕が勝手に痛くなった。
「嫌ですっ!」
両腕を互いにぎゅっと抱きしめるようにして、全力の抵抗を続ける。
それを見た医者が、スゥッと目を細めて、困ったように首を傾げた。
「それじゃぁ、他の場所に打つ?」
「へっ?」
いや、俺は別に腕に打たれるのが嫌で拒んだわけじゃなくてね…。
「他か…。じゃぁ尻だな」
「ちょっ、待っ…待って火宮さんっ!」
なんでそうなる!
手早くベッドに押し倒されたかと思ったら、くるんと身体がうつ伏せに返されて、ズボンのウエストに掛かった手が、ぐいぐいとそれを下げようとしてきた。
「嫌ですからっ!」
腕も嫌だけど、お尻なんてもっと嫌だ。
どこだって痛い気はするけど、痛さに恥ずかしさまで加えてくれなくていい。
慌ててズボンをギュッと掴んで下げられるのを防いだら、上から大袈裟な溜息が降ってきた。
「翼」
「っ…」
思ったよりも真面目な響きの声がして、ビクッと身体が震えた。
な、なんなの、急に…。
恐る恐る後ろを振り返ったら、思いの外、真剣な目をした火宮の顔が見えた。
「っ…」
「翼、ただの風邪だと侮るな。もしも悪化したり、肺炎にでもなってみろ?たかが風邪、では済まなくなるんだぞ」
「それは…」
「それに、おまえが辛い思いをするのは、俺も辛い。今できる治療はすべてしてやりたいし、少しでも早く治るように、気休めだろうが、打てる注射があるなら打っておいてやりたい」
真摯な火宮の言葉が胸に沁みた。
もちろん俺だって、ただの風邪に効く特効薬なんてないことも、注射といったって、栄養剤では、少々免疫力と抵抗力を高める程度の効果しかないことも分かっている。
風邪を治すのは自分の力だけ。
俺ですら知っているその知識を、火宮も当然分かっている。
それでも少しでも縋れるものがあるなら、俺に受けさせてやりたい、と思う火宮の気持ちは、蔑ろには出来なかった。
「分かりました…。ごめんなさい」
心配、してくれているんだよね、これでも。
本当はちゃんと優しいし、俺のことを想ってくれている。
俺は火宮のその優しい気持ちに応えようと、抵抗する身体から力を抜いた。
「分かればいい。さぁそうと決まったら、ほら尻を出せ、翼」
「は…?」
いやだから、打つなら普通に腕でいいから。
何言ってるの?と後ろを振り返った俺は、ニヤリと意地悪く頬を持ち上げている火宮の表情を見て、ザッと血の気が引く音を聞いた。
「ふっ、散々抵抗して手間をかけた罰だ。とびきり痛いのを、尻にブスッと刺してもらおう」
「っーー!」
前言撤回。
誰この人を優しいとか言ったの。
やっぱり火宮はどこまで行っても火宮で。
「超ど級のどS!意地悪っ!バカ火宮ぁぁっ」
ほらほら、とズボンを下ろそうとしてくる火宮に、叫びすぎてフラフラと目眩がした頭がバタッとベッドに突っ伏す。
「まぁどうでもいいけど、病院ではお静かに」
注射器のポンプをピュッと押して空気を抜いた医者の、目と針先がキラリと光った。
「あぁぁぁ」
俺は完全に熱が上がり切って、しかも恐怖とか怒りとか疲れとかが一気に押し寄せて、クタンとそのまま気を失ってしまったらしかった。
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