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夏原'sバースデー おまけ
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「ほら、夏原。誕生日プレゼントだ」
ガサッと差し出された紙袋を、夏原はぎょっとした顔で見つめた。
「えっ?会長が、俺に?」
「あぁ。取っとけ」
「あ、ありがとうございます」
まさかー、と驚き慌てながらも、夏原は受け取った紙袋の中身をわくわくとした顔で覗き込んだ。
「………」
「なんだ」
「いえ。あのこれ…」
一体何、と怪訝な顔になる夏原に、火宮のニヤリとした笑みが向いた。
「案ずるな、合法だ」
「いや、そういう話ではなくてですね」
「なんだ。無色、無臭、無味の媚薬だぞ?不満か?」
それなりに高価だぞ、と笑う火宮に、夏原の微妙な目が向いた。
「どうしろって言うんですか、こんなもの」
しかも袋の中身を見れば、まだ他にも、コンドームにローション、何に使えというのか、ロープまでもがご丁寧に入っていた。
「今夜は真鍋とデートだろう?」
まぁ、午後3時からのアポで、昼過ぎすぐから事務所内をウロウロしていれば、火宮の目にも止まろうというもので。
「あは、バレてます?」
「うっかり逃げ損ねた真鍋が吹き荒らしているブリザードの噂はここまで届いてきたさ」
ククッ、と喉を鳴らしている火宮はどこまで見通しているのか。
「でも今夜はディナーまでですよ」
「そうか」
「それすらどうにかこうにか約束を取り付けた、というところこで、だからこれの出番があるようなところまではとても」
ガサッと火宮がくれた袋を振って、夏原が苦笑した。
「一服盛って、縛り付けて犯そうとは思わないのか」
そのための無味無臭だぞ、と。
「だーかーら、会長、俺はですね、前から言っていますように、能貴の心が欲しいんです。身体だけを無理矢理手に入れても、虚しいだけなんですよ」
「純愛だったな」
ククッと笑う火宮は、夏原の反応など分かりきってやっている。
「純愛ですよ。既成事実を先に、なんて思わないほど、大事に思っちゃってますからね」
「おまえがな」
「まぁ俺も、まさか本命にはこんなに臆病になるとは思ってもいませんでした」
ククッ、と可笑しそうに喉を鳴らす火宮は、その昔、女を食い散らかしていた、悪行三昧の夏原の過去を聞いている。
「本命か」
「えぇ。能貴が、本気をチラつかせた瞬間に困ってみせるから、ついうっかり引いてあげてしまうくらいにはね、本気ですよ」
ふざけ半分に彩った口説き文句には堂々と言い返してくるのに、本気を滲ませた口説きには、途端に黙り込む真鍋を思い出す。
「ククッ、焦れったい1歩でも確実に前に進んでいるか」
「はい。十分脈はアリますよ」
「そうか」
ふわりと微笑む火宮が、微かに遠くを見つめる。
「あれからもう10年だ」
「え?」
「真鍋蒼がこの世を去ってから、10年が経つ」
それは火宮と真鍋が出会ってからも、同じだけの年月が過ぎたということで。
「そろそろあいつも、俺と、蒼羽会以外に…あいつが個人的に大切に想う存在を得てもいいと思うんだ」
「会長…」
「自らの幸福を追求し、幸せになってもいいと思うんだ」
ふわりと微笑む火宮を見て、夏原の目に嫉妬の炎が揺れる。
「能貴はそれでも、あなたと蒼羽会があればそれで幸せだというと思いますよ?」
「だがそれだけでは埋めきれない場所もあるだろう?」
火宮にも蒼羽会にも満たせない部分が。
「恋人を持つというのはいいものだぞ、と、せいぜいあれに教えてやれ」
「ふふ、あなたが伏野翼くんを手に入れたようにですか?」
結局惚気ですね、と笑う夏原の目には、消し去れない嫉妬がますます色濃く映る。
「本当、敵わないですね」
悔しそうに唇を噛む夏原に、火宮は艶やかに笑う。
「絶望に沈みかけた能貴を掬い上げ、あなたという希望を与え、蒼羽会という最高の城を用意し、今度はその最後の1ピースまで埋めるお膳立てをしてみせる…」
「ふっ…」
「どれだけ大切なんですか」
はぁっ、と切なく笑う夏原にも、火宮は艶やかに微笑むだけだ。
「いつか掻っ攫ってやる、と宣言したいところですが、それすらもあなたの手のひらの上なんですよね」
「ククッ…」
「あなたの思い通りになるのは癪なんですけど、それでも俺は能貴が欲しい」
火宮に負けじと艶やかな笑みを浮かべてみせる夏原が、サラリと長い髪を靡かせる。
「これは、そのときのために、大事にとっておきたいと思います」
まぁロープは要りませんが、と笑う夏原に、火宮の悪戯な目が向いた。
「そうなったとして、真鍋が大人しく組み敷かれると思うのか?」
「いや、でも俺が能貴になんて…無理無理無理っ!」
「真鍋もまったく同じことを言うだろうよ」
「あー…」
互いに譲れないソレを思って夏原が頭を抱える。
「だからって縛り付けてというのは…」
「ならばおまえが大人しく譲るんだな」
真鍋の方は縛るくらいやれるぞ、と火宮は笑う。
「惚れたが負け?いやでもそこは別問題っていうか…」
「愛があれば、そんなものどちらでもいいんじゃないのか?」
手に入ることに変わりはないぞ、って。
「いや無理です。ないです。想像するだけで気持ちが悪い…」
どうする、俺!と悩んでいる夏原は、すでに真鍋が落ちることは決定事項なのか。
ククッ、と笑う火宮が面白そうに目を細めたとき…。
「だから翼さんっ、今はまだ来客中で…」
「だから夏原さんでしょう?いいんですよ、むしろ」
「いやよくありませ…」
バタバタと派手な足音と共に、遠慮の欠片もなく会長室に飛び込んできた言い争う声に続いて、入ってきたのは翼と真鍋で。
パン、パンッ、パァーンッ。
「ぎゃっ!ちょっ、銃じゃないーっ…」
「何をやっているんだ、おまえは…」
飛び込んできた途端、派手な破裂音を轟かせた翼と、あわや銃撃かと、咄嗟に翼を取り押さえてしまった部屋付き護衛を、火宮が呆れた顔をして見ていた。
「何って、夏原さんのお誕生日って聞いたから、クラッカーですよ」
お祝い!と暴れる翼を、護衛がハッとして解放している。
「まぁ見れば分かるが…」
会長室に散らばった、色とりどりのカラーテープを、火宮がひょいと拾い上げた。
「ふふ、夏原さん!」
「ん?」
「ハッピーバースデー!」
ずいっ、と翼に押し出された真鍋が瞬間的に冷気を纏い、夏原がパァッと笑顔を輝かせ、火宮が深い深い苦笑を浮かべていた。
「翼さん、喧嘩をお売りですか?」
「え…?」
「伏野翼くん、ナイスなプレゼントだね。嬉しいよ」
「あ、いや、なんかコレ、やばいかも?」
「だから翼、おまえは相変わらずどこまで無謀だ」
「あは。ついうっかり。あの、これ…火宮さん、助けてーっ!」
わーっ、と真鍋から逃げ回る翼が、火宮の陰に隠れ、その真鍋を追う夏原が真鍋に冷ややかに撃退され、火宮が苦笑してその光景を眺めていた。
ヤクザの本拠地、蒼羽会事務所には、あまりに場違いな、けれどもとても穏やかで平和な光景が、のんびりと広がっていた。
お誕生日おめでとう、夏原センセ♡
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