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リクエスト⑥ プチパニック2
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「翼さん、とりあえず痛む足を見せて下さい」
「はい…」
スッと真剣な顔になった真鍋が、翼の座ったソファの前の床に跪いて足を取る。
「夏原先生は、そちらのキャビネットから救急セットと、会長に連絡をお願いします。会長室にいらっしゃいますので」
「うん、わかった」
言いながらすでに翼の靴と靴下を脱がせた真鍋が、微かに腫れた翼の足を撫でる。
「ここ、痛みますか?」
「っ、はいっ…痛い!」
「こちらは」
「それ痛いですっ…」
「やはり捻挫のようですね。骨までは…」
翼の足を触ったり動かしたりながら、真鍋がその怪我の具合を確認する。
その脇では夏原が救急セットを運び、内線を使って火宮に状況を伝えていた。
「ひとまず固定しましょう。夏原先生、冷湿布とテーピングを」
「あ、あぁ、うん」
「どうしました?会長が何か…」
内線電話をかけたまま、変な顔をして固まっている夏原に、真鍋が怪訝な顔をした瞬間。
バァンッ!
「翼が怪我をしただと?!真鍋、夏原、おまえたちが側にいて!」
焦りと、鬼の形相と、心配を同時に浮かべた、酷く器用な表情をした火宮が飛び込んできた。
「会長、申し訳ごさいませ…」
「謝罪は後だっ!翼。翼の容体は!」
なんなら救急車を、とスマホを取り出している火宮に、夏原も翼も呆気に取られている。
「翼っ!足か!折れたのかっ?!医者だ、医者を呼べ。いや、運んだ方が早いか、真鍋、車をすぐにまわ…」
「火宮さんっ!」
「あ?なんだ翼。大丈夫だ、すぐに医者に…」
退けっ、と真鍋を押し退けて、翼の前に膝をついた火宮に、翼の苦笑が向いた。
「火宮さん、落ち着いて下さい。俺は大丈夫ですから。ほんのちょっと足首を捻っちゃっただけで」
ほら、動きます、と足を振って見せた翼が、そのせいで痛んだ足に、クゥッと顔を歪めた。
「あぅっ、痛ったぁ…」
「翼!」
あまりに間抜けな翼の行動に、火宮の顔からフッと焦りが消えていく。
代わりに浮かんだ呆れた表情に、翼が気まずそうに愛想笑いを浮かべて見せた。
「あは。やっちゃった」
「馬鹿者…」
けれど呆れながらも、火宮の目には心配の光が色濃く残っていて。
「少し腫れているな。捻挫か。真鍋?」
「はい、ただ今、冷却とテーピングで固定をと。応急処置後、念のために医者へ」
「そうだな。翼、他は?」
「段差に腰打ったのと、尻餅ついてお尻がちょっと痛むくらいです」
「まぁ打撲だな。分かった。真鍋に処置してもらったら医者に行こう」
俺が連れて行く、と落ち着いた顔で言う火宮に、真鍋が傅いた。
✳︎
「あーぁ、もう、能貴といい、会長といい、何なの?」
火宮が翼を病院に連れて行っている間に、会長室のソファで、契約書を整えながら、真鍋と夏原が雑談していた。
「お忘れ下さい」
取り乱したことが余程恥ずかしいのか、真鍋の顔がいつにも増して仮面のように無表情だ。
「無理でしょ。あんなに慌てる能貴とか。俺、今まで1度も見たことない。会長が撃たれたときだって、そんな話1つも聞かなかった」
それが翼がたかがちょっと足首を捻っただけで…と、夏原に拗ねた表情が浮かぶ。
「ッ、それは…」
「いいけどね。能貴が会長命なのは今更だし。だけど妬けるね」
「何を馬鹿な…」
フィッと気まずそうに逸らされる真鍋の顔に、夏原の切ない微笑が向いた。
「そんなに怖い?」
「ッ、あなたは何を…」
「能貴のことだもん。分かるに決まってるでしょ。そんなに怖いか。会長の1番大切なものを損なうのは」
「ッ…私は…」
ぐっ、と言葉に詰まる真鍋に、夏原は鮮やかに微笑んだ。
「いいよ、別に言わなくて。だってあの会長までもが、あんな風に取り乱すんだもんね。怪我なんて、それこそ見慣れまくっているはずのあの方すら。本当、重いよな」
翼という存在は。火宮の命よりも、ずっと。
「そうですね…。それを私は」
責任を感じて俯く真鍋に、夏原はトントンと書類を揃えながら笑顔を向けた。
「あれは不可抗力でしょ。事故だよ、事故。だからあまり気に病まずに」
「あなたにも責任の一端はあるのですよ?!そもそもあなたが壁ドンなどと廊下でふざけていなければ…」
「あー、まぁ、悪かったよ」
「かくなる上は、指をすべて落としてでも会長にお詫びを…」
無表情なのだけど、目だけが本気の真鍋に、さすがに夏原の目が見開かれた。
「待って、待って、待って、能貴。怖いから!たかがちょっとした捻挫で会長もそこまでは。そもそも能貴の指なんて会長が欲しいって言わないから!」
あぁヤクザだった、と、夏原が珍しく真鍋の認識を改めている。
「ですが私は会長の大切な翼さんをお守りするどころかお怪我を」
「まぁだから、俺も同罪だから!一緒に謝ろう?」
もう怖いな、と苦笑している夏原に、真鍋がふと顔を上げたとき、カチャンとドアが開いて、火宮にお姫様抱っこをされた翼が帰ってきた。
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