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リクエスト⑩ 吸血鬼 3
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「んんっ…」
俺がイッたのを最後に、気を失ってしまった翼の後始末をしてやり、ベッドに移動してきたところで、くぐもった呻き声が聞こえた。
「目が覚めたか?」
隣に寝かせたその身体の、平和そうに緩む顔を覗き込む。
「あ、火宮さん」
にへらっ、と、俺の顔を見つけた途端に微笑むその姿が可愛すぎる。
たまらず第2ラウンドに突入しようかと伸ばした手は、ムニャムニャと口を開いた翼の声でピタリと止まった。
「若いですねー」
「クッ、急になんだ」
「だって、とても何百歳だなんて思えないでしょ?お肌ツヤツヤ」
身体を重ねた後は特にー、と膨れる翼に苦笑が浮かぶ。
「まぁ、根本からして人とは造りが違う」
吸血鬼は長寿だ。
それこそ人間からしてみたら、俺たち吸血鬼は、悠久の時を生きる。
「ごめんね、火宮さん」
穏やかに微笑む翼は、ときどきこうして、とても寂しそうに呟く。
熱に浮かされて求め合った後の、ベッドの中では、とくによく。
「謝るな、翼」
「ん。でも俺は…」
そう、翼は。
きっといつか、先に逝く。
異形のものである俺と、人である翼の生の長さは違う。
それを厭うて以前に1度、俺は翼にプロポーズをした。
血の契約を結び、俺のパートナーとなることで、翼も吸血鬼としての生を得られるし、不老長寿の性質も持つことができる。
けれども翼は、決してそれに頷かなかった。
あなたと遥か長い時を生きることは、どうしても自分にはできないと。
「あなたと永くを生きることよりも、人として死ぬことを選んだ俺を、恨んで下さい」
「恨まんよ。俺は初めから、おまえのそのしなやかな潔さに惚れたんだ」
きっと俺と同じモノになって、死が遥か遠い存在になったなら、翼の輝きは半減するのだろう。
儚い命だからこそ、精一杯煌めこうとするその美しさに、俺は魅入られたのだから。
翼もきっと己のそれを分かっていて、俺と永くを生きる道を選ばないのだ。
「最期のその日は、必ず全部。俺の全てを、あなたの糧にして下さいね」
シワシワのおじいちゃんで、もしかしたらもう不味いかもしれないけれど、と翼は無邪気に笑う。
「おまえは残酷だ」
俺を遺して逝くだけでもずるいのに、最期を俺に看取れとまで言い放つ。
しかも最期の息の根を、この俺に止めろと頼んでいく。
「ごめんね、火宮さん」
それでも惚れた、俺の負けだ。
それまでのほんの僅かな一時を、おまえと共に過ごせると思うだけで幸せだから。
「愛している、翼」
「はい、俺もです、火宮さん」
叶うことなら、おまえを無理矢理こちらの世界に引き摺り込み、攫って堕として悠久を生かしたい。
けれどもそれをした俺を、おまえはきっと一生許さないだろう。
その目が憎しみを込めて俺を見つめる日が来るくらいなら、俺はおまえの願いを叶えることなど造作もない。
おまえが幸せだと笑い、俺を好きだと微笑みかける。
その幸せを、たとえ短い間だとしても得られるのならば、俺は黙ってそちらを選ぶ。
「翼、愛している。愛している…」
掻き抱くように引き寄せた身体からふわりと甘い香りが湧き立って、にこりと優しい微笑みが俺に向けられた。
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