アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
リクエスト⑪ 記憶喪失 6
-
「会議室、資料室、庶務課…うーん、本当に普通の会社みたい」
会長室を飛び出し、適当に階を下りてきたフロアの廊下を、俺はのんびりと眺め歩く。
さすがにすれ違う人はやけに私服率が高いし、がらの悪さを感じるけれども、イメージにある暴力団事務所というのとは大分違う。
「ここは…何も書いてないけど」
プレートの出ていない扉を見つけて、ふと興味を惹かれる。
「ちょっとお邪魔しまーす」
少しだけ覗いてみようと、扉を開ける。
「あー、備品倉庫か」
ダンボールやらファイルやらが所狭しと並んでいるラックがいくつも見える。
そっと中に入った俺は、キョロキョロとそれらを見回した。
「ああは言ってたけど、本当は薬物とかあったり。もしくは銃とか隠してないかな」
仮にも暴力団事務所でしょ、と思いながら、宝探し感覚でダンボール箱を覗き込み始めた俺は…。
「なっ、なっ、なっ…」
とあるダンボール箱の中から出てきた代物を見て、目を見開いた。
「こっ、これって…」
うわぁっ!と思わずそのダンボール箱をひっくり返してしまう。
途端にバラバラと床に散らばったのは、いわゆる大人の玩具。アダルトグッズの数々だ。
「ひー」
焦って暴れて手を振り回した俺は、その手にガツッと嫌な衝撃を感じて、タラリと冷や汗を伝せた。
「や、ばっ……うわぁぁぁっ!」
ぐらついていたダンボール箱が、バラバラと頭の上に落ちてきた。
積み上がった棚には、複数個のダンボール箱。それが次々と襲いくる。
「うわぁ、うわぁぁっ」
ドサドサと落ちてくるダンボール箱に、身体が埋まっていく。
「ふぇぇー」
ようやく音が止んだ、と思ったときには、もう片付ける気力が湧かないほどに、散乱した備品類に取り囲まれていた。
「今の音、なんだ?」
ガチャッと倉庫の扉が開き、強面の男の人が入ってきた。
「あっ、す、すみませんっ…」
まずい。勝手にこんなところに入って、こんな風に散らかして。
怒られる、と思った俺が、身を竦めた、そのとき。
「翼さん?」
「え?」
誰だろう、この人。
俺の名前を知っている?
「このようなところで何をなさっているのです。…大丈夫ですか?」
ザカザカと散らばった品々を避けながら、強面の男の人が近づいてくる。
「あ、の…」
「翼さん?どうしました?」
とりあえず手、と、助け起こすために差し出された手はありがたく取ってみる。
「ありがとうございます。それで、その…」
この人ももしかして、俺が記憶を失くしてしまった中にいた人だろうか。
じっと見つめる目を、不審そうに見返されたとき。
「っ…池田幹部、翼さん、こちらにいらしたん……どひゃぁっ、なんっすか、コレ」
開け放たれた倉庫の扉の向こうを通りかかった、確か浜崎といった男が、目を丸くしながら入ってきた。
「すごいことになってるっすね…」
こりゃ、片付けが大変だ、と苦笑している。
「すっ、すみません!すぐに片付けますから…」
「いえ、それより、翼さん、真鍋幹部が探してまし…」
「見つけました」
ふ、と新たな人の気配が湧いた、と思ったときにはもう、冷たい美貌の真鍋と呼ばれていた男が、倉庫の入り口に立っていた。
「真鍋幹部っ」
「これはこれは…翼さんが?」
スッ、と目を細めた真鍋が、散らかった倉庫内を見回して、壮絶な冷気を放つ。
コクン、と頷くしかできない俺に、さらに冷たいブリザードが吹きつける。
「あなたはまた、一体何をなされているのです…」
まぁ、見ての通り?
「はぁっ。これは会長に報告させていただきます。それよりも、翼さん」
「っ…」
なんだかとてもまずいことになるような気がする。
「七重組長がお越しだそうです。あなたも来るようにと」
「七重…組長?」
誰だそれは。
「とりあえずお会いになってみてください」
「はぁ。あ、でもここ…」
片付けなきゃ。
「池田、浜崎。この場を処理しておけ。適当な人員を割いていい」
「はい」
「はいっ」
真鍋の命令に、2人がシャンと背筋を伸ばしている。
「えっ、でもこれは俺が散らかしちゃったんですから…」
「あなたはこちらです」
片付けている暇はない、と腕を引かれてしまう。
「えっ、あっ、あのっ…」
「はぁっ。頼みますから、これ以上余計な手間を増やさないでください」
心底呆れ返っている真鍋のオーラにはなんだか逆らえず、俺は申し訳なく思いながら、池田と浜崎という男たちにペコッと頭を下げて、渋々真鍋について行った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
76 / 233