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真夏の夜の熱 1
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【本編345話、執筆後】
真鍋と夏原のお話です。
そろそろこの2人も進展させてやらなければな、と思いつつも、2人の間の譲れない壁がそれを阻み(笑)
それでも少しだけ、前に進んだかな?
歩みののろい2人ですが、お楽しみいただければ幸いです。
ーーーーーーーーーーーーーー
その日、真鍋は真鍋らしくなく、荒れに荒れていた。
一軒のバーのカウンターで1人、ガブガブと浴びるように酒を飲み、「もうお止めになられては」というマスターの声も聞かず、次々と杯を重ねていた。
ダンッ、とテーブルに置かれたグラスから、酒がピチャンと飛び散る。
スーツの袖を汚したそれを、真鍋は忌々しそうに睨みつけた。
「ッ、くそっ」
自分でやらかしたその粗相に苛立ちながら、真鍋がポケットからハンカチを取り出そうとしたとき。
それよりも一瞬だけ早く、サッと横からハンカチを差し出す手があった。
「どうぞ」
スマートに差し出されたそのハンカチと、頭上から掛かった男の声に、真鍋の苛立ちはますます色を深めた。
「ん?ほら、能貴。早く拭かないと染みになる」
勝手にやるよ?と笑って、ポンポンと袖を拭きながら、夏原は荒れている真鍋を見下ろした。
「ッ、もう遅い」
バッ、と夏原の手を振り払い、真鍋は再び酒のグラスに手を伸ばした。
「クスッ、だーめ。もう止めておけ」
おまえはこっち、と、酒のグラスを取り上げられ、水の入ったグラスを差し出された真鍋が、ギロッと夏原を睨み上げる。
「あなたに指図される筋合いはありません。っ、何を勝手に隣に…」
「まぁまぁ、ほら」
図々しく、真鍋の隣の席に勝手に腰掛けた夏原が、しつこく水を勧める。
「ッ、放っておいて下さいっ。私は今日は、とことんまで飲み…」
「死んだから?」
「ッ…」
「あの子が死んだから?」
真鍋の言葉を遮り、遠慮の欠片もなく紡がれた夏原の言葉に、真鍋が唇を震わて目を固く閉じた。
「な、に、を、おっしゃって、いる、のです…」
低く、絞り出すように紡がれた真鍋の声に、夏原はクスクスと笑った。
「知らないとでも思った?アオイ、だっけ?」
「ッ、どこから仕入れてくるのです…」
「ふふ、能貴に関する情報は、なんだって知ってる」
にこりと微笑んだ夏原の気配に、真鍋はゆっくりと目を開けて、ハッ、と自嘲気味に笑った。
「ならば、正確には、葵が『死んだ』のではなく、私が『死なせた』ということもお分かりでしょう?」
嘲るように言い放って、どさくさに紛れて酒のグラスに伸びた真鍋の手を、夏原がハシッと掴み止めた。
「だから駄ぁ目。だから、こんなに荒れてるの?」
「ッ…」
らしくない、と呟く夏原を、真鍋は冷たい無感情な目で見つめた。
「似合わないことをしているのは承知です。らしくもなく、あんな青年1人に、愚かにも入れ込んでしまった自分にも呆れます」
「それでも、止められなかった。そんなに似てた?そのアオイという青年は」
なんの感情も映さない真鍋の目をしっかりと見返して、夏原は鮮やかに微笑んだ。
「真鍋蒼に」
サラリと紡がれた夏原の言葉に、真鍋がヒュッと息を鋭く吸い込んだ。
「あなたは…」
「ふふ、落としたい相手が弱っているところを狙うくらいには、悪い男だよ、俺は」
妖しく光る眼鏡の奥の瞳が、真っ直ぐに真鍋を射抜いていた。
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