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この桜の木のしたで風に吹かれていると
春風にのって子どもたちの声が聞こえてくる。
笑いさざめく声
友達を呼ぶ声
拗ねたように泣く声
ちいさなちいさなうねりのように
遠く、近く
ちかく
とおく
1983年
3月、春まだ浅い京都。
市街地からかなり離れた山の手、左京区の古い民家が建ち並ぶ川沿いの一角。
二階建ての古い木造のアパート。
そのすぐわきに、かなり樹齢をかさねているであろう桜の大木が、
枝先に蕾をつけている。
アパートの管理人とおぼしき痩躯の老人と、
学生らしき若い男が建物の入り口の前に立った。
入り口には「桜荘」と書かれた表札がみえる。
「狭い部屋しかのうて、すんまへんなあ」
管理人らしき老人が若い男に話しかけた。
口を半開きにして桜を見上げていた学生があわてて老人を見た。
「あっ、いえ・・・あの。お世話になります。」
「ええっと、お名前、なんでしたかいな」
「泉です。泉修平。・・・・これ、すごい木、ですね。桜ですか?」
老人も木を見上げて目をしばたいた。
「へえ、なんや、二百年前からあるちゅうことですわ。
最近はもう、花もようさん咲かしまへんけどね・・・。
え、そいでお名前はなん・・・」
「いずみです。」
「へえ、へえ、泉さん」
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