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執事。エドワードの追憶
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「エドワード!また喧嘩したなお前!」
「…売られたんだ。買うだろ」
「買わねえよ!ルール違反だ!罰として城外50周!」
ここホープ城には、朝から威勢のいい声が響き渡っている。
この城の主、アリアは現国王の寵愛を受けながらも、貧しい者や苦しむ者に手を差し伸べるため自らで立てたこの城から多くの優秀な人材を育てていた。
城で暮らすものたちはみなアリアを慕い、彼女のために生きることに喜びを感じていた。
ただ1人の男を除いては。
「エドワードはまた罰則か」
「これで今月10回目だぜ!あいつやる気あんのか⁈アリア様があいつにだけ特別ルールつけるわけだ!ありゃ、相当な訓練受けてるぜ。ペナルティ受けても難なくこなしやがる」
顔色一つ変えず城外を走るエドワード・J・フラーは最近この城にやって来た新参者だ。
訳ありの人物をアリアが連れてくるのは日常茶飯事だったが、エドワードほど心を開かない人物は珍しかった。
「お前より手強いなぁありゃ」
エドワードにペナルティを言いつけたガタイのいい赤茶色の髪をした男が、椅子に腰掛けた灰眼の男に笑う。
「俺はそんなに尖ってたか?ユーフォリア」
「会う者全てが敵って目ぇしてたぞニコライ」
「そうか…そんな頃もあったな」
ニコライと呼ばれた灰眼の男は、外を走るエドワードに優しい目を向けた。
「よぉ、エドワード!元気にしてるか?」
「ニコライ!」
エドワードがホープ城にやって来て2年目の夏、国王の第一王子付きとなったニコライが久々に城に顔を出した。
「かーっ!やっぱちげぇなぁ!王子様の付き人は!なんだそのピシッとした服は!」
燕尾服をきたニコライにユーフォリアが豪快に笑う。
「ファイム様が会議の間だけ時間が空いたんでな、なかなか似合うだろ?」
「楽しそうだな」
微笑むニコライにエドワードが笑う。
「楽しいよ。ファイム様はすごく賢くて優しい方だ。俺がこんな風に誰かのために生きることができるなんて思ってもなかったから」
「誰かのためにか…」
エドワードはニコライがファイム王子付きの執事になることをアリアに何度も頼んでいる姿を思い出していた。
城の警備をする予定で城の見学に行ったはずのニコライが、帰ってくるなり執事の勉強を始めたことに誰もが驚いていた。
「そんなにいい王子様ならモテるんじゃない?ね?アル」
笑顔の弟バルとは対照的に無表情な兄アルが小さく頷く。
「…おー、そうだな。今月、ご結婚されるんだ。」
「?あんまり嬉しくなさそうだな」
「なに言ってんだよ。アリア様のご懐妊とファイム様のご結婚!こんなにめでたいことは無いだろ!婚約セレモニーには護衛としてお側にいることを許されたんだぞ!」
瞬間曇ったニコライの表情に、エドワードは微かな違和感を感じた。
「そういえば、フラーさんのしごきに負けず頑張ってるらしいじゃないか。」
「…あの人限界ってものを知らないんだ。」
エドワードの言葉にニコライは腹を抱えて笑った。
「じゃあそろそろ」
「たまには帰ってこいよニコライ」
「…そうだな、今度はファイム様も一緒に。そのときは、くれぐれも失礼のないようにしろよ?お前ら」
だが、この微笑んだ姿を最後に、ニコライはホープ城に戻ってくることはなかった。
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