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要さんがそろそろ帰る、と言って椅子から立ち上がった。
もう夕方頃だった。
俺は探偵さんの後ろに隠れてずっと背中越しに眺めていた。
本当はもっと早く帰って欲しかったから。
「それじゃ、二人ともまたね。」
「気をつけてな。」
「君もね。あと、ポチ君も。」
「…はい。」
「バイバイ。」
陽気に笑った要さんは笑顔のまま手を振って帰っていった。
緊張が溶けて肩の力が抜ける。
「ポチ、大丈夫か?顔疲れてるぞ。」
「緊張した。」
「俺以外とこうやって話すの初めてだったからな。」
「…うん。」
二人でリビングに戻って向かい合って座る。
探偵さんが冷たい水をくれて、それを喉へ流し込む。
カラカラの喉が渇いて気持ちいい。
「要、苦手だったか?」
「少しだけ。」
「そうか。何度も言うが悪いやつじゃない、少し…常識がずれてるだけだ。」
「わかってる。要さんだけじゃなくてね、他の人は苦手。知らない人とか。」
「俺もついこの間知り合いになったばかりだろ。言ったら他人だ。」
「…他人、だね。」
「世界中全員他人だ。」
探偵さんが珈琲を飲んでそう言った。
俺にとっては探偵さんしかいなくても、探偵さんにとってはたくさんの人がいて。
俺は探偵さんの中のたくさんの他人の一人なんだ。
「少し悲しいね。どうやったら他人じゃなくなるの?」
「あーそうだな。…他人じゃなくなるくらい、近くなったらじゃないか?」
「近く?」
「お前は、俺とそんなに近くなりたいか?どこの誰か知らない男だぞ。」
なりたい。
なりたい、…けど。
探偵さんはなりたくないんだろうな。
俺はただの拾われた誰かだから。
「…忘れた。」
「忘れんなよ、馬鹿。」
こうやって特別な他人でいたい。
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