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冷たい海の底にいるような気分だったーーー。
突然扉を開け中に入ってきた蘇芳の、雰囲気はまさにそんな気分にさせるものだった。
しかし、そんな雰囲気とは裏腹にその目は恐ろしいくらい怒りに燃えていて、眉間に深く刻まれたシワがその怒りの度合いを表しているようだった。
俺は何で蘇芳がそんなに怒っているのか分からず、困惑する。
隣をちらりと見てみれば、木賊さんも困惑しているようでオロオロとしている。
蘇芳は、そんな俺達を無視しズカズカとこちらにやっくると俺の手首を掴んだ。
「 ッーー!!?」
思ったよりも強い力で掴まれた右手首が、ズキリと鈍い痛みをうったえた。
その痛みで持っていたフォークを落としてしまい、フォークは床にあたってカランッカラーンッと音を立てて白い床を転がっていった。
「 蘇芳っ!!」
無残に転がっていったフォークの音で、我に返った木賊さんが止めに入ろうと椅子から立ち上がる。
伸ばされた手が俺の手首を掴む蘇芳の手に触れようとしたが、それはバチっという音と共にあっさり弾き飛ばされ。た。
驚いた木賊さんの引っ込められた手は、赤くなりかるく煙が上がっている。
火傷したようになっている指先を見て俺は目を見開いた。
「おっ、お前っ!!なんて事するんだっ!!」
カッと頭に血がのぼる。
いきなり入ってきたかと思えば、なんでか無茶苦茶怒っていて、しかも優しい木賊さんに手まであげて、、、。
俺は怒りのまま掴まれた手を振りほどこうと思いっきり腕を引いたが、蘇芳が掴む手により力を入れたせいでまったくほどく事が出来ない。
「クッソ!この馬鹿力!」
なおも抵抗を続ける俺を無視し、蘇芳は俺の腕を引き無理やり立たせた。
急に引っ張られた腕の関節やら筋やらあちこちが痛みをうったえ、思わず声が漏れる。
「ーーーィッ!」
しかし、蘇芳はそんな事御構い無しに、俺をそのまま扉まで引きずって歩き出す。
木賊さんが慌てて止めに入るが、蘇芳は今まで聞いたことの無い地を這うような声で木賊さんに言った。
「木賊。これは命令だ。金輪際こいつに近づく事を禁ずる。接触した場合貴様の親族もろとも罪に問われると思え。いいな。」
「ーーーッ!!?」
木賊さんは信じられない者を見る目で蘇芳を見つめて硬直した。
それは俺も同じで、、、。
「おいっ!!何言ってんだよ!!俺と木賊さんが何したって、、、ッ!!!」
言葉に詰まってしまった。続ける事ができなかったのだ。
木賊さんから視線を俺に移した蘇芳の目が、先程とは違い酷く冷たく冷え切っていたからだ。
目が離せないーー。全身の毛穴から冷や汗が吹き出し心臓が恐怖からバクバクと早く脈を打つのがわかった。
俺はこの時、蘇芳が本気で怒っているのだと理解した。
最初に出会った頃の怒りなんて序の口も序の口で、あんなの怒ってるなんて言えないくらいだ。今とじゃ比べ物にならない。
俺は初めて本気で蘇芳を怖いと思った。
目の前にいる美丈夫が、得体の知らない恐ろしい生き物なのだと改めて理解した。
声なく震えた俺を一瞥し、蘇芳は前を向き直るとまた歩き出した。
俺は救いを求めるように木賊さんを見たが、木賊さんは泣きそうな顔でこちらに手を伸ばしたまま動かない。
唇が「風音君、、。」と動いたのがわかった。
俺はその時悟った。
いくら木賊さんでもダメなのだ。人質もとられた。
俺を助けられる人はこの場にはいない。
俺はせめて木賊さんが安心してくれるように、笑ってみたがうまくいかなかったみたいで、より一層木賊さんの顔は悲痛に歪んだ。
そしてこれ以上の接触を遮るように、目の前で扉がバタン
と音を立てて閉じた。
ここから約1ヶ月、木賊さんに会うどころか部屋からも出してもらえなくなるなんてこの時の俺は思ってもいなかったーーー。
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