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第2話
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仲の良くなった俺達を親友は嬉しそうに見守っていた。俺たちが一樹の部屋で抱き合って、唇を合わせているところを見られるまでは。
親友は目を見開いて部屋の戸の前で固まる。みるみるうちに顔を歪めると、一樹から俺を勢いよく引きはがして、思いっきり拳を振った。鈍い音がした。
「おまえ何やってんだよ……!」
痛む頬など、気にならなかった。俺を見る親友の目は冷たくて、ああ、俺は最低だと心の中で再び思う。
俺のことを一番に理解してくれていた人だった。俺がゲイだとしっても唯一俺から離れないでいてくれた。
ほっとけないんだと、何かと世話を焼いてくれて、ずっと俺の隣にいて一度だって離れたことはなかった。
お前が幸せなら、相手が男でも女でも関係ないだろ。そういって笑ってくれた。
「俺の弟巻き込んでんじゃねぇよ!」
低くて鋭い声が深く、突き刺さる。
こんなに声を荒げる親友の姿を、初めてみた。
「っ……」
ごめん、そう言おうとしたのにうまく声が出ない。
「兄ちゃん!ちがう!俺が裕之さんに好きって言ったんだ!だから俺たちちゃんと好きで、ちゃんと付き合ってて、」
「は?ちゃんとって何だよ!お前ら男同士だろ!…今すぐ別れろ!」
「は…なんで、なんでだよ!」
「一樹は黙ってろ!」
普段の穏やかなど微塵も感じさせないその表情に、鋭い声に、一樹は肩を竦めて口を閉ざした。
剥き出しの嫌悪を隠そうともしないその冷たい目で、俺を睨む。
「何考えてんだよ裕之、一樹はまだ高校生だぞ!」
一樹はまだ、高校生。その言葉が胸をえぐる。
一樹は元々女の子と付き合っていた。俺を好きになってからその子とわざわざ別れて、俺に告白したのだ。男を好きになったのも、付き合ったのも、俺が初めてだった。
一樹はまだ、あやふやな位置にいる。
また女の子を好きになることだってあるかもしれない。むしろその確率の方が高い。
まだ、軌道修正するには遅くない。
俺と付き合うことでこっちの道に引きずり込む形になってしまえば、俺の人生に一樹を巻き込んだことになるのは確かだ。
親友の言っていることは的を得ていた。
「ごめん、でも俺、本当に一樹が好きなんだ」
「黙れよ!」
俺の言葉をかき消すように被さった怒鳴り声に、沈黙が後を引く。
「お前さ、…ちゃんと女好きになれよ」
静かな部屋に親友の言葉がやけに大きく聞こえた。
ちゃんと、ってなんなんだろう。
どうやったら俺はちゃんと出来るんだろう。
わからない。わからなくてどうしようもなくなって、先のわからない暗闇に不安でたまらなくなったそんな時に、一樹が俺を好きだと言った。
泣きそうなくらいに嬉しくて、俺も一樹が好きだと言った。
それじゃダメなんだろうか。俺が一樹を好きで、一樹も俺が好きで、それだけじゃダメなんだろうか。
その答えを俺はよく分かっている筈なのに、思わず感情が溢れてそんなことを考える。
好きだけじゃ駄目なんだと、そんなことは当の昔から知っていた。
「ごめん…一樹」
名前を呼ばれて顔を上げる。今にも泣きそうなその表情に酷く胸が痛くなった。
「俺たち別れよう」
「は…?」
「だから、別れよう」
「は…?…なん、で?兄ちゃんが別れろっていったから?その通りにすんの?俺のこと好きじゃないの?」
瞬きもせずにその目から溢させ、零れ落ちた涙が頬を伝って落ちる。一樹の頬に手を添えて親指を滑らせてその涙を拭った。
深いブラウンの目が俺を捉えて離さない。
「ごめんな、一樹。好きになってごめん」
俺が悪いんだ、全部。
お前を好きになった俺が。あの時、お前を振るこが出来なかった弱い俺が。
そっと手を離して、じゃあな、と告げる。俺は上手く笑えているただろうか。
一樹の絶望的な、咎めるような視線から逃れるように背を向けて、部屋の戸のドアノブを握り締めた。
「もう二度と顔を見せるな。一樹にも、俺にも」
吐き捨てるような言葉を背中越しに聞きながら、俺はその部屋を出た。
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