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吾輩は早瀬である(R’s、番外) 11
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それ以降…
「早瀬!!いたいた…あのな…今日16時から練習するんだけどよかったら…」
「いきません」
別の日は…
「早瀬!!これ!!このバンドめっちゃいいんだよ~今度これのコピーしたいなって思ってて、貸してやるな!!」
「いりません」
「いいからいいから、借りるだけかりてみ?」
名前を教えてしまったことが凶と出てしまったらしく鈴木先輩はほぼ毎日俺を勧誘しに来た
その日も俺に先輩のお気に入りらしいバンドのCDを押し付けて帰っていった
あとからなんで急に俺に固執し始めたのか聞いたら「お前はミュージシャンの目をしてた、俺のミュージシャンの感がそう告げていた!!」なんてどや顔で言われた
でも先輩のその感は侮れなかったのかもしれない…
とにかくそうやって先輩は勧誘に来続け、たまにほかの先輩もつれてきたりしてあの手この手を尽くして俺をバンドに入れようとした
ある日は練習に誘い、ある日はCDを貸し付け、そこそこ有名なバンドのライブチケットをくれようとしたこともあった…
少しづつ先輩自体は思っていたよりもいい人なんだなと分かったけれど先輩の音楽を認めようとは思わなかった
俺にはみとめないわけがあった…
「………」
「………」
「………」
「………」
少し話は変わるが俺の家は四人家族だ両親と姉が一人いる
「………」
「………」
「………」
「………」
いつも通りの沈黙が4人で囲むには大きすぎる食卓を包む
そんなダイニングルームの壁にはたくさんの写真やトロフィーそして盾が飾られていた
4割が父、3割が母、2割が姉で最後の1割が俺のものだ…
我が家は音楽一家だった、といっても鈴木先輩たちのようないわゆる軽音の部類ではない…
父は指揮者で一年の半分以上は海外で過ごしているし、母はオペラ歌手で姉はバイオリニストだった…
かくいう俺もピアノをはじめ一通りの楽器を習い、今は一応家の中ではピアノを重点的にやってるというポジションにいる
でも父や母や姉のように打ち込めているかというとしっくり来てないというのが現状だった
自分でいうのは何だがそこそこのレベルではあると思う、でももし本気で父や母のように音楽で食べていこうと思ったらそこそこのレベルなんて腐るほどいるのだ…その中でさらに抜きん出ないと音楽で食べていくことはできない…
音楽は好きだ、やめたいと思ったことはないし強制されているわけでもない
でも楽器がなのかスタイルがなのか…何がなのかはわからないがしっくり来てないと思うことが多かった
そしてその「しっくりきてなさ」は我が家のダイニングルームの壁に顕著に表れていた
俺がこの家で最年少だとはいえやはり俺の得た賞は少なく小さい
そのこともあってか俺はこの家で肩身の狭さのようなものを感じていた、父や母に期待されそれに応えられる自分でありたいと思った
ちらっと厳格な面持ちで家政婦さんの作ってくれた料理を口に運ぶ父親を盗み見る、クラシック音楽の紹介雑誌で見た顔のままの姿だった
そのままぐるっと自分の家族を気づかれないように見回してみる
全員が自分の音楽に自信と誇りを持っていた
部屋で試しに聞いてみた鈴木先輩に借りた音楽とはだれもどうしても似つかなかった
きっとうちの家族はそういう音楽は嫌いだろう…
そう思った
そして次の日…
「あ!!早瀬!!珍しいな早瀬がこっちに来てくれるなんて!!やっと加入する気に…」
「なってません」
先輩の教室にいった
やはり下級生は目立つらしくみんなこっちを見ている、早く用事を済ませて帰りたかった
「先輩これ…」
「あ!!CD!!聞いてくれたんだ!!よかっただろぉ~これ!!よかったらほら今度アルバムも持ってきてやるよ、この後に出たアルバムがさぁ…」
「いいです」
「え…」
「いいですそういうの…あともう俺のこと勧誘しないでください…」
「………」
「俺バンドとかやるつもりないんで…失礼します…」
「………」
先輩は唖然と突っ立っていた
失礼な断り方だったかもしれない…でもあれぐらいしないときっとまた勧誘に来るだろう
なぜだかわからないがもう勧誘は来ないだろうと思うと胸が痛んだ
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