アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
淡く儚く【wtai】*花吐き病
-
ドッドッドッ。
こんな心臓が激しくなるのは。 いつ以来だろうか。
《わとさん:オレも~》
スマホの画面に表示されたLINEのメッセージに、鼓動の速度をさらに加速させられる。
彼もこちらに向かっている。
もうすぐ、会える…。
嬉しいはずなのに、やっぱり喉の奥からはジワジワと"アレ"が這い上がってくるように込み上げてきて、やっぱり苦しい。
「…っダメダメ!今日は!」
パンパンと両頬を叩いて気合を入れ直す。
これから大好きな彼に会える その事実だけに集中しようと自分は決めた。
せっかくのデート……なんだから。
一応、2人きりで出かけるわけだし、向こうはそう思ってないとしても、自分はその…好き、だから心の中でくらいは 思っていてもいいはず。
うん。今日くらいは楽しもうっと。
気持ちを切り替えると不思議とあの苦しみは、嘘だったのかというぐらい綺麗に消えて。
「ん、あ、アイクさんお待たせ」
「自分も今着いたから大丈夫ですよ」
こんな台詞を言えるくらい余裕も出ていて。 足どり軽く私たちは、夕暮れの街に向かうのだった。
□□
デートといっていいものなのかわからないけど。 自分たちは順調に街を巡っていた。
前からわとさんが行きたい!と言っていた箇所を覚えておいてよかった。
どこに行っても彼は目を輝かせて、楽しそうにニコニコと笑って。 その姿からは数日前までのあの枯れ果てたやつれた姿なんて、想像もつかないように元気だった。
昨夜は自分といても楽しいと感じてもらえるのか少し不安だったけど、そんな心配は必要なかったみたいだ。
「すっかり暗くなっちゃいましたね」
「結構遊びまわったんやもんね」
楽しい時間はあっという間に過ぎるもので。 気づけば20時を超えていた。
楽しかったなあという彼を見て、今日誘って本当によかったと心の底から思う。
そしてそろそろ帰ろうかと言われたその時、自分はようやく果たさなければならない目的を思い出しグッと拳を握りしめた。
言わなきゃ。
「あの、わとさん」
「ん?なあに、アイクさん」
おかしいな。
さっきまで普通だった鼓動が、一気に加速してドクドクとうるさい。
言え、言わなきゃいけないんだ。
心で思ってもなかなかそれは声にならず。 言おうとすればするほど不安がうまれる一方で。
"好きだと言ってどうする?"
"彼が自分に想いを寄せているという根拠も自信もない。"
"それに、断られたら?"
"もし断られたら… 自分の"アレ"はどうなってしまうのだろう?"
不安が不安をうんで視界が揺れる。 目の前には突然黙った私に、戸惑う彼の姿がうつっている。
"断られた後わとさんは他の誰かと?"
"それを自分は喜んで、笑って"
"祝福することが出来る?"
気づけばいなかったはずのものが喉の入口のすぐそこにいた。
苦しい、そう思わず顔をしかめてしまう。
そんな私を心配そうに声をかけてくれる彼の優しさが今はただただ、痛い。
これ以上期待してダメだったら
私は多分立ち直れないから。
「…っ!ア、イクさん!」
「…え、……あっ」
ボロ。ボロボロ。
口から無数の花弁が零れる。 こんな情けない姿、見られたくなかったのに。
どうしても我慢出来なかった。
耐えられなかったそれは止めようとしても、どんどん口から吐き出されていく。
彼は流石慣れているだけあって、自分の背中にまわってさすってくれる。
大丈夫、大丈夫やけん。
そう言われて少しずつ自分も 落ち着きを取り戻していった。
◇◇
「…もう、大丈夫です」
「…よかった」
アスファルトに落ちた花弁は、いつもの様に砂に変わって消えて。
見慣れた光景なのだろう、 彼はそれに驚くこともなかった。
オレはただ、ポツリと
「…アイクさんも、やったと?」
そう言ってアイクさんは頷いた。
それを見てオレは確信した。
自惚れでなければ、きっとアイクさんは、オレのことを。
それなら早く全て話して、お互い楽になりたいという気持ちが先走ってオレは念入りに準備していたカッコイイ大人の台詞も告白も忘れて。
「オレ、花吐き病なんよ」
「わとさんも…ですか。」
「……それで、オレの片想いの相手は」
横にいた彼の顔を見る。
空気が冷たいのかオレたちが熱いのか。
吐き出す吐息が白くなる。
「……好きなのは、アイクさん。」
言えた。
胸の中のつっかえがとれたようにスッキリとした気分になったオレは、ハッとして目の前の彼の顔、を……
「……っ、う……っ」
「え、ちょっ、アイク!?」
「………かっ」
「へ?」
目から涙を零す彼は、震えた声でオレに言った。
「本当、ですか……?」
「…うん、多分」
オレの多分という言葉に鼻をすすりながら、多分って、とさらに涙を零した。
せっかくかわいらしい顔してるのに台無しよと涙を指ですくってあげる。
アイクさんの手にオレの手が触れた。
その手は震えていて冷たくてなんて脆いんだろうと思う。
掴んだら、消えてしまいそうだった。
「自分、クミさんと楽しく話してるわとさんを見た時苦しくて死んじゃうんじゃないかってぐらい喉の奥がつまって、それで好きなんだって思ったんです」
「見てた…」
「ごめんなさい、でもわとさんが花吐き病って知ってたからにも想う人がいるんだろうなって考えたら自分は言うべきなのか、って凄く悩んだんです。言ってもわとさんを困らせるだけで、迷惑なんじゃないかって」
そんなこと、と言いかけてグッと思いっきり抱きしめた。
「ぅっ………けど、だけど、言わなきゃ苦しいままだっていうのも分かってましたし、それにやっぱりどうしても伝えたいなって思って、言うことにしたんです。
まさかわとさんから告白されるなんて」
ちょっと、ビックリしました、とアイクさんは小さく笑うように言った
オレのコートを掴むアイクさんの力が少しだけ強くなったような気がする。
抱きしめたままオレは口を開く。
「…ちなみに、多分って言ったのは、花吐き病によって気づいたこの感情に自信がもてんくて、やけん多分」
もうほぼ100%に等しいんやけどね という言葉はなんか恥ずかしい、言うのはやめておく。
抱きしめていた体を引き離して油断した顔をした彼の隙を狙う。
「やけん、アイクさん」
「ん~…なんですか?」
「多分を絶対に変えるために、オレと付き合って」
不意をつかれた彼の目が見開かれる。嘘、と言葉が漏れて、嘘じゃなかよと笑って見せた。
その直後彼の止まったはずの涙がポロポロ溢れ出してまた泣いて男の子やのに泣き虫やねなんてからかって。
「で、よか?」
わかりきった答えを待つ。
少し意地悪かな、そう思いつつもじっとみつめて視線をそらそうとする彼を逃がさなかった。
アイクさんの顔は真っ赤だ。
「……よろしく、お願いします……!」
泣き声が入り混じったその声は今まで聞いた中で1番嬉しそうで、言ってよかった、とオレも涙が出そうになった。
ちょっと、ちょっとだけ。
その後はもう言葉なんていらなかった。
お互い一言も発さず、ただ"好き"という感情に、空気に身を任せて。
体をよせ
唇を重ねた。
「……っん」
「……っは」
唇を離すと、オレたちの口からはあるものが零れた。
「これって……」
「終わり、ってことなんかな?」
「…そうですよ、きっと」
それは苦しみからの解放と、幸せの扉を開けたと告げるオレたちの愛が形に現れたものだった。
「…じゃ、帰りましょ」
「…うん、あ、アイクっ…!」
「はいはい。行きますよわとさん」
「そ、そこ普通に言う!?」
歩き出したその街には、オレたちの笑い声が残り
そしてオレたちがいた。
そのアスファルトには
ーー白い綺麗な花が2輪
仲良く、隣同士で並んでいた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 18