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22夜
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満がいつもの和室で目を覚ました。
最近、視線の先はいつも決まって、満月が生け花をしている。
「おはよう、満」
満は目を開けても、布団に横たわったまま何も返さずに、ただ満月が生けている途中の生け花を見つめる。
「おいで」
満月は持っていたハサミを置くと、慈愛に満ちた微笑みを満に向け、手招きをした。
そこではじめて満は身体を起こし、満月の方へ歩み寄る。
「ここへ」
満月は生け花から少し距離を取ると、満月の前に満を座らせた。
「満もやってみるかい? 」
そう言ったところで満は何も返さない。
当然自分から動くこともしない。
しかし、満月は後から満の手を優しく取ると、ハサミを握らせた。
「私はね、どんな満でも私の傍にいてくれさえすればなんでも構わないのさ、今みたいにね。話さなくても、動かなくても、笑わなくても……勿論、沢山話して、感情の篭った瞳を向けてくれる満も好きだよ。だけど、あの時の満は私を拒むのだから良くないね」
満月は器用に満の両手を操り、雑談混じりに花を生けていく。
声はとても穏やかで、至福の時を過ごしているようだ。
「今の満はとても私好みだよ。私を拒まないし、拒むどころか、もう私無しでは生きてはいけない。身体を開けばしっかりと私に応えてくれる。嗚呼、なんて素晴らしい……愛しているよ、満」
パキン、と茎を切る音が室内にこだました。
「けれども……」
ため息混じりに、今度は少し憂いを帯びた口調で満月は言った。
「人間とは実にしぶとい生きものだね。まさか炎に巻かれても……」
その時、微かに満の手が強ばった。
それに気付いた満月はほくそ笑むと、静かに満の手を放す。
ハサミは畳に落ちることはなく、満がしっかりと握っていた。
「ねぇ、満……? 」
「……ぁ」
満から掠れた小さな声が発せられた。
ハサミを持つ手が震える。
「み、んなは……」
──生きている……?
焦点の合わなかった満の眼が、徐々に自我を取り戻す。
始めに込み上げたものは混乱で、次に押し寄せて来たものは──怒りだった。
「けれど、それももう関係ないだろう? だって、もう満は私のものなのだから……」
「っあぁああああああああああああああぁぁぁ!!! 」
「ぐっ……」
一瞬の出来事だった。
満はハサミを両手で握ると、それを満月の腹に突き刺した。
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