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最終夜
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「嘘だっ! そうやって俺を……っ!! 」
力なく後に倒れた満月に跨って、満は怒りに任せて何度も何度もその刃を満月に突き刺す。
鮮やかな水色をしていた着物は、あっという間に真っ赤に染まり、満も返り血によって赤く濡れていた。
「かはっ……み、ちる……」
「呼ぶな! 俺の名前を……! 俺の……大事な……」
満が再度ハサミを振り上げた。
しかし、腕はそこでピタリと止まる。
「みちる……ゴホッ」
現状を徐々に理解したのだろう。途端に満の手は見てもわかるほど震えだし、血塗れのハサミが満の手から滑り落ちた。
音は、全て畳に吸い込まれる。
「満」
「あ……あ……お、俺、なんて事を……」
満の白い肌が一層白さを増して、身体がガクガクと震える。満は自分の赤く染まった両手を見つめ、言葉にならない声を漏らした。
「あ、あぁ……」
満はどうすれば良いのか分からなくなった。怒りが先行していた筈が、今となっては満月への罪悪感でいっぱいだった。
あれだけ嫌っていたのに、満月が居なくなってしまうと考えるだけで胸が苦しい。まさに、今の満の心には満月だけだった。
刺された本人である満月は、身体を起こすと胡座の間に満を収め、優しく抱きしめる。
腹の痛みなどとうに無くなったようで、痛みの表情どころか紅葉した頬に、ニヤケを抑えられないような笑みを浮かべていた。
その沙汰はまさに狂気といえる。
いつの間にか、満月の腹部の出血は止まっていた。
「満」
「俺は……」
「満は私を殺したいの? 」
「ちが……っ、ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい! やだ、満月、居なくなったら俺は……! 」
「ふふ、そうだよね。私が居なくなったら満は生きていけない。これは、ちょっと満が興奮しすぎて起きた事故だ」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「大丈夫だよ。だけど、もうこんなこと、起きないよね? 満」
お互い顔は見ずに、会話だけを続けた。
満月は、正気を取り戻した満に求められる嬉しさを隠せず、笑みを深める。
これこそが、満月が仕上げた完璧なシナリオ。
どんな満でも確かに好きだったが、満月はやはり少しでも人間味のある満を望んだ。その為に、ちょっとしたシナリオを作り上げたのだ。
身体の芯まで満月を覚え込まされていた満が堕ちてくるのはとても容易いものだった。
「はい、はい。もうしない……こんなこと、しない」
「いい子だね、満」
そう言うと、満月は満の額にキスを落とした。
抱きしめられる事がとても心地いい。ずっと、このままでいたいと満は思った。
ふと、頭の片隅を大切な人達が過ぎった。
しかし満は、みんなが無事ならそれで良いと、すぐに考えるのをやめてしまった。
今は、この心地良さに酔いしれていたかった……
END
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