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7夜
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昌の実家で夜を明かすのも今日が最後となった。
随分と長い間お世話になってしまったが、家の人たちはまたいらっしゃい、と言ってくれた。
あれから満は神社でのことはすっかりと忘れていた。
そんなこともあったな、と。
「あ、お酒もう無いね」
「マジか、じゃあジャンケンしようぜー。負けたヤツ、あのコンビニまで行ってこーい! 」
もうかなりいい感じに出来上がっている一也の合図で、それぞれが手を出した。
「あ……」
「よーし満行ってこい! 」
「暗いから気を付けてな」
まさか自分が負けるとは思ってもいなかった満は渋々腰を上げ、財布を片手に外へ出た。
夏だというのに外は肌寒く、満はぶるりと身を震わせた。
街灯が点々としかなく、殆ど真っ暗と変わらない道は人通りもなく少し怖い。
逆に、夜中に人がいてもそれはそれで怖いが……
いつもより神経を研ぎ澄ませながら、なんとかコンビニで缶ビールやチューハイ、オマケにスルメなどのつまみを買う。
後は帰るだけだと自動ドアを抜け、来た道を戻ろうと足を向けた時だった。
「……鈴の音だ」
あの神社で聞いた鈴の音が、聞こえた。
今回ははっきりと。
チリンチリンとあの神社の方から優しい音がする。
満は気味が悪いと思った。思ったのに……何故かその鈴の音が気になって仕方がない。
その後は満の意思なのか、そうではないのか分からないままに鈴の音に導かれるように音の後を追う。
あれだけ不気味だと怖かった真っ暗な山道に、何のためらいもなく足を踏み入れ、ただひたすら神社を目指す満。
満の双眸はただ正面を見つめる。まるで取り憑かれているような様子だった。
「あ……れ……俺……どうして」
意識がしっかりと満自身に戻ってくると、満は言い知れぬ恐怖に背筋が凍りつく。
「と、取り敢えず早く戻らな……」
「どこへ行くの? 」
「ひいっ! 」
踵を返し、山を下りようとしたところで何者かに腕を掴まれた。ひんやりと伝わってくる他人の体温に、一瞬で鳥肌が立つ。
満は直感的に人間ではないと察した。
そして怖くて振り向けない後ろから舐め回されるように見られている強い視線。あの日感じた視線と同じだった。
途端、満の全てを恐怖が支配し、ガタガタと震え出す。
「みーちーる? どこへ行くのって聞いてるんだけど」
「……ぁ」
なぜ名前を知っているんだ。
満がずっと背中を向けている事に痺れを切らしたのか、声の主は満の肩を掴むと無理やり正面を向かせた。
目の前に映ったのは、長く伸びた水色の髪を流した、長身のとても美しい男性だった。
男は175センチくらいあるのか、170センチある満の身長を悠々越している。
口許にはゆるい笑みを浮かべ、薄氷の瞳はしっかりと満の双眸を捉えて離さない。
思わず満は見惚れた。綺麗な男の瞳から、目が離せない。
「ふふ……何見惚れてるの? 」
「あ……ちがっ……! 」
男が一層深く微笑んだところで、満は我に返り、掴まれた腕の拘束から何とか逃れようと力いっぱい抵抗した。
「ふふふ……ふふ……人間とは本当に非力だなぁ……何とも可愛らしい抵抗だ」
精一杯の抵抗だと言うのに、男は余裕綽々の様子でニタニタと笑っている。
そして、何度目かの問いを満に投げかける。
「それで……満はもし拘束が解けたらどこへ行くの? 」
「っ……か、帰るんだ……! か、えしてよ! ……この化け物っ! 」
先程まで恐ろしい程の笑みを浮かべていた筈の男は、急に無表情になった。更なる恐怖に思わず満は竦み上がってしまう。しかし、ここで引いてはいけない。きっと、死んでしまう。そうしたら、家族や、昌や一也、暖かい昌の家族に一生会えなくなってしまう。そんなの、嫌だ。
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