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洗濯物
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今日の雨立家は、里冉と楽の2人きりだった。
「兄貴ー取り込んできたぜー!」
「ありがとうらっくん、そこ置いといてくれる?」
「りょーかーい!うわっとっと」
大量の洗濯物を両手いっぱいに抱えて戻ってきた四男。前が見えないほどの量に思わずよろめくが、長男がヒョイと支えた。
「おわ、さんきゅ」
「ふふ、大丈夫?ごめんね最近忙しくて溜め込んじゃってて」
「おー、しゃーねーよ遠出続きだったしな」
「夏はイベント多いからね…だんだん家事する時間がなくなっていくんだよね…」
「そういや最近仕事も行ってたしなぁ」
「あぁ……うん。そうだね」
仕事とは言ったが、正直なところ本人以外は兄弟誰も里冉の仕事を詳しく知らないのだ。
雨立家には両親がいないため、長男の里冉が高校卒業後すぐにどこかへ就職したらしいのだが、里冉と一番仲の良い楽でさえ詳細を、いや詳細どころかどんな職種なのかすら知らない。
聞いても教えてくれない上に、朝方に出かけ翌朝帰ってくるだけでしばらく5人が生活できるほどのお金を稼いでくる。
そのおかげで普段は専業主婦…主夫をできているのだが、金額が金額なだけに詳細を聞いていいかどうかすらちょっと怪しい。
それが普通になっているので、兄弟は皆、危ないことにだけは手を出していなければいいなぁ、程度にしか思っていないが。
ただまあ、とにかく謎だ。
「さて、たたみますか」
「おーっす」
楽は素直に返事をして、洗濯物をたたむ手伝いをし始めた。
皆の前だと双子の弟の樹同様…いや樹よりだいぶマシなのだけれど、少し素直じゃないところがある。そんな楽だが、里冉と2人きりだとやけに素直だ。
「ふふ」
「?」
「いや…洗濯物、お日様の匂いがするなぁって」
「ん、そーだな」
「らっくんの匂い…」
「うぇ?そーなの?」
「うん、なんかね、すごい近いってわけでもないんだけど」
「違うんじゃねーかよ」
「でもお日様、って感じがするの!なんでだろうね」
「さぁな、俺に聞かれても」
「ふふっ」
柔らかく笑って、洗濯物そっちのけで、楽にふわりと寄りかかった。
そんな里冉を「わっ、」と受け止める。
抱きつくような体勢になり、お互い首筋に顔が近づいて、思わず少し心臓が早くなってしまう。
兄貴こそいい匂いがするじゃねえか。自然とそう思って、なんとなくどきりとした。
「……うん、お日様の匂い」
「嗅ぐな嗅ぐな」
「ふふふっ、らっくーん♡」
「やめろバカ、ちょっ……」
更に寄りかかる里冉の重さに耐えきれず、楽は後ろに倒れる。幸い、洗濯物のクッションに受け止められた。
里冉の故意なのか偶然なのか、押し倒されたような格好になってしまい、無意識に赤面してしまう。
この長男、自分の顔面偏差値がどれだけ人間離れしているかわかっているのだろうか。わかっていたとしてもどの道狡い。
長い髪が重力に従って前に垂れ、カーテンのようになって閉じ込められる。
オマケにベランダ側を背にしていて逆光になっているせいで、まるで光を背負っているみたいになっておりやたら神々しい。
……綺麗だ。
直視できない。
「はーーー……」
「えっ何!?なんでこのタイミングでそんな深いため息!?俺なんかした!?」
「いや…したと言えばしたししてないと言えばしてないけど……兄貴ずりぃよ……」
「何が……?」
「無意識かぁ…ですよねー……」
「……ね、らっくん」
「はい?」
「2人の時くらい里冉って呼んでよ」
「……っ、今かよ」
「だめ?」
「…だめじゃない」
ドキドキとうるさい心臓を無視して、小さく「里冉、」と呼ぶ。
そのまま軽く口付けし、二人並んで寝転がった。
「ただいま〜…ってまた寝落ちてる」
「あはは、ほんとだ。冉兄も楽もお疲れかな」
「つーか洗濯物…まいっか」
夕方。
帰ってきた次男と三男が、洗濯物そっちのけでイチャついた末に寝落ちたらしい二人を見つけて呆れたとばかりにため息をついた。
微笑ましいが、わりと頻繁にあるのでそろそろ二人揃って寝落ちるのはやめてほしい。せめて冉兄は起きててくれ。なんて思う。
あと抱き合って寝るのはやめた方がいいと思う。樹に見られたら絶対ドン引かれるから。
「…この2人よく一緒に寝てるの見かけるけどなんだろうな、落ちつくのかな」
「好きな人と一緒にいると眠くなるって聞いたことある」
「あぁ…なるほど……」
「毛布取ってくるね」
「おう」
リビングを出ていこうとした英樹がふと立ち止まって、白のほうを振り向く。
「…白は俺といると眠くなる?」
「ならねぇな」
「そっかぁ」
「そもそも人前でそんな眠くならないからな」
「なるほど」
白は、わかりやすくシュンとしてしまった英樹に近づき、その短い髪をくしゃりと撫でた。そして耳元で呟く。
「…好きじゃないわけじゃないからな」
「……!」
「さ、毛布かけたら課題すっぞー」
「ぐええ」
ぱぁぁ!と一気に嬉しそうになる英樹だったが、すかさずテンションを下げられた。
変に素直じゃないのは、雨立の血筋か。
……バカな英樹には言葉で伝えねばならないときがある。
白は心做しか顔が熱くなっている自分に言い聞かせるように、心の中で呟いた。
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