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バカと勉強会
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「また赤点かよお前……」
一つ下の弟から見せられたテストの答案用紙を、呆れ顔でまじまじと眺める。
白は自分でも自覚があるくらいにはよくできた脳みそをしているため、成績優秀で赤点など1度も取ったことがない。
なのにコイツときたら……。
英樹をジト目で見つめながらため息を吐く。
まあ一言で言えば、英樹は兄弟の中で一番“バカ”なのだ。
白がつきっきりと言っていいほどみっちり勉強を教えているにも関わらず、馬耳東風というか、耳から耳へすり抜けていっているらしい、全く頭に入る気配がない。
「えへへ」
「えへへじゃねぇんだよなぁーもうちょい危機感もってくんないと教える側も困るっつーか……」
「ごめん」
「…さあて今日はどんだけしごくかなぁ」
「程々で頼むよ白ぉ」
180もあるデカイ図体に似合わない情けない声に、思わずふはっ、と吹き出す。
「ご褒美あったら頑張る?」
「頑張る!」
「何がいい」
ほんの少しの間が空いて、一言。
「ぎゅーしてください!」
「…その程度でいいのかよ。んじゃ」
「えっ」
迷わず抱きしめた。驚いて固まる英樹。
「前払い。これで頑張らざるを得なくなったろ」
抱きついたまま見上げて、にやり。
「うおおおずるい聞いてない!!でも頑張る!!」
「おー頑張れ頑張れ」
単純バカでよかったと思う瞬間だ。
扱いがものすごく簡単なのだ。
そうして2人は勉強を始めた。
「勉強中?おつかれさま〜」
「冉兄。わ、ありがとう」
しばらくすると里冉が二人分の紅茶を部屋に持ってきてくれた。
レモンティーのいい匂いが部屋にふわりと充満する。
「死ぬぅ……」
「この程度で死なれたら困るっつの」
「あはは、少し休憩したら?」
「そうだな」
「わ〜い休憩〜…」
「ふふふ、覇気がないね英樹」
マンガなら確実にふしゅうぅと耳から黒い煙が上がってるだろうな、と思った。
「運動神経はいいんだけどねぇ」
「脳まで筋肉だから仕方ない」
「なんか強そうだねそれ」
「体育会系バカって言ってんの」
「そうなの!?」
「あはは…」
わかりやすくバカだ。ただまあ、白はそんな英樹のことが嫌いなわけでは無い。
むしろ運動している姿が好きなので、させたくて勉強させているわけでもない。
進級して欲しい。理由はその一言に尽きる。
1年違うだけでもかなり寂しいのに、2年となるとどうなってしまうか。
「さーてと、じゃあお兄ちゃんは夕飯作りに戻るかな」
「今日何ー?」
「ふふ、煮込みハンバーグだよ」
「!!」
英樹が急に起きあがって目を輝かせる。
「やったあ!!」
「よかったな、ご褒美が増えた」
「うん!!冉兄の煮込みハンバーグぅ!!」
何を隠そう、大好物である。
誰より器用な長男の料理は、ハンバーグだけでなく全てめちゃくちゃ美味しいのだが、英樹は特別それが気に入っているらしい。
急にやる気になった英樹を見て、その綺麗な顔で白にウインクを送る里冉。
相変わらずいろんな面から完璧に弟のサポートをしてくる里冉を、白は心底尊敬しているし、そんな兄が好きだ。
「もう少ししたらご飯だから、下りてきなね」
「はぁーい!」
やる気にしてくれてありがと、と目で伝えて、部屋を出ていく里冉に手を合わせた。感謝。
こういうとき、兄というより両親の代わりを全力でしてくれているなぁ、と思うが、所詮数個しか違わない兄である。
……負担になっていなければいいのだが。
「さ、続きやるぞー」
「おー!」
だから次男の自分が誰よりも“お兄ちゃん”でいよう。
父と母と兄の三役を押し付けるより、まだいいだろう。
白は、そう思って過ごしているのだった。
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