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四男の恋愛事情
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「…楽、その中にあるのって」
「あぁ、これ?まあ…いつものだよ」
いつも通りの朝。
下駄箱の中にある可愛らしい封筒を指さした樹に、楽は少し困ったように笑いかけた。
「相変わらずおモテになるようで…」
「あはは…ラブレターとか今の時代こんな頻繁に下駄箱入ってるもんなんだなぁ…」
「あのね、楽が特殊なだけだと思う」
「そーなの?」
「そーなの。」
開けなくてもラブレターだとわかるくらい、それはわかりやすくラブレターだった。
封をするのにハートのシールが使われているあたり、乙女だなぁと変に関心。
それを手に取った後、靴をしまって教室へと並んで歩き出す。
ちなみに、楽はなぜだか異様にモテる。
大方、その可愛らしい外見と、そこから発せられる外見とは多少ギャップのある少年らしい言動と、人懐っこく誰とでもすぐ仲良くなる性格のせいだろう。
家での楽を見ている限りそれが素ではなさそうなので、所謂絵に書いたような八方美人だが、どうしてか八方美人ぶりを感じさせないのが楽だった。
長男の溺愛っぷりを見ていると男からモテるのは納得がいくのだが、それに加え女からもモテるのだ。別に特別男らしいわけでもないのに。
その気がない楽本人的にはわりと大変なのだろうな、と樹は毎回同情している。
「誰から?」
「えっと…確かこの名前白兄のクラスの人…3年…」
「流石お姉様ホイホイだね」
「なんだその異名。…つかどーしよこれ」
「どうせ兄貴以外に興味無いんでしょ?断りなよいつもの如く」
「やっやめろ学校でそういう事言うの…っ!別にそんなんじゃ…!」
「はいはい」
ぽぽぽと顔を赤らめて否定するその反応を見る限り、本当に兄貴以外に興味無いんだなぁ、自分とマジの双子なのかと疑うレベルで悪趣味……そう思ったが、言いすぎると照れた勢いで殴られるのでやめた。
「…丁重にお断りしてくるか」
「それがいいよ」
いつもの結論だ。
気分で女の子に靡いたりなんかしたらどうしようかと思ったが、安心した。
靡かれたらあの長男がどんなことをしでかすかわからない。学校に乗り込んできて……考えない方がいい気がした。やめよう。
「そういや樹って色恋の話全く聞かねぇけどそのへんどうなんだよ。見た目だけはあの完璧超人そっくりなんだからさぞモテるだろうに」
「殴っていい?あと楽と違って俺はモテないから」
長男がそれなりに嫌いな樹としては、似ていると言われるのは地雷だ。
そして本当にモテないのだ。というか告白されないのだ。嘘ではない。
とはいえ、実際のところバレンタインになると普通ではないであろう数のチョコが机に山積みになっていることがあったので、顔の良さというのは強い。
なのに普段告白されないのは、近寄り難い雰囲気だから、眺めているだけで満足、みんなの樹くんだから、そんな理由だろうと、楽は思っている。
影で憧れの念を込めて樹王子と呼ばれているのを知っているからだ。
楽なんかクラスメイトから唐辛子なんて呼ばれているのに。双子なのにこの差は流石にない。
当の本人は本当にモテないのだと思っているのが流石というか、相変わらず真面目で人の気持ちに鈍感だ。
「意外だよなぁ」
「興味もないからね」
「それは嘘だな」
「…どういう意味」
「興味はあんだろ、ほら前兄貴の部屋で」
「ちょ、ストップストップごめんやめてやめなさいやめろチビ」
「チビ関係ねえよ!!あとお前もそんな変わんねぇだろ!!」
「うるさい158cm」
「具体的数字をバラすな!!」
教室についてもそんなやり取りを交わしていたら、聞こえたらしいクラスメイトにふふっと笑われてしまった。
ちくしょう、身長バレたじゃねぇか。と樹をキッと睨む楽だったが、チビなんて見たらわかるじゃん、と言わんばかりのニヤニヤしか返ってこなかった。
さて、と楽が席についてまず見たのは手元のラブレター。
白兄のクラスなら白兄好きになってそうなのになぁ、なんて思いつつ、初めから望みないもんなぁと1人で納得。だって英兄とちょーラブラブだもん。
もし兄貴が同じ学校だったら俺らもあんな……と思ったが、年の差はどうやっても変えられないので不毛な想像はやめた。
手紙の中身を読むと、どうやら本当に楽宛らしい。
淡く他の兄弟へのやつじゃねーのかなんて期待していた自分が馬鹿だったと思い知る。面倒事をあわよくば押し付けようとするのは、悪い癖だな。
つーか人の気持ちを面倒事って、失礼すぎだな。すまん先輩。ありがたいことにはありがたいんだが…その……
「はぁー…」
「どしたのらっくん」
「恋華。いや…」
「あぁなるほど〜またか、大変だねぇ」
「おー…」
後ろの席の幼馴染みの恋華が、楽の手元を覗き込んで呆れたような笑顔を浮かべた。
「お兄さんとは順調?」
「なっ……お前……」
「知らないとでも思ってたのかい?この僕がぁ?」
「ニヤニヤすんな。別に…お前に心配されるような関係ではねぇから安心しろ」
「そう。心配はしてないけどね」
「あっ…そう……」
思わずこの女は…という表情を浮かべる。でもまあ、いい意味で昔から全然変わんねぇなコイツ。
「らっくんを好きになる子の気持ちがわっかんないよねぇ」
「失礼な」
「だってイケメンでもない上にチビだよ?更にヘタレホモとかいう濃いオプション付きだよ?普通に嫌だよねぇ」
「何一つ間違ってないのが腹立つな…的確に説明してくれてんじゃねえよ……」
「お兄さんのこと好きになるならまだわかるけどね〜顔の良さがすごいもん」
「それな。正直俺もなんで好かれるのか謎でならない…」
「…母性?」
「母性??」
いや、だとしたら何故そこから恋愛感情になるのか。
女の考えることはわからない。
樹の言っていた通り、里冉以外を好きになることなんてほぼ無いに等しいだろう。
とりあえず昼休みに会ってはみるが、どうせ振ることになる。
なんというか、振る方ってめちゃくちゃ申し訳なくなるから好きじゃない。
どう上手く振っても振られる方が被害者、みたいになってしまう。
勝手に好きになられて、素直に振ったら振ったで、極端に言えば悪者扱いになるのが気に食わない。
かと言って付き合う気も好きになる気もサラサラないのに受け入れたらそれはそれで悪い奴になってしまう。
何より振るのは良心が痛む。
片思いだと思っているときの苦しさは遠い過去だが味わったことがある。それに加え振られるとなると、傷心は免れないだろ。俺には耐えられないかもしれねぇな、と楽は思う。
「はぁぁ……」
再び深めのため息が漏れた。
昼休み。校舎の一番端の階段の踊り場。
「手紙でも書いたんですけど楽くんのこと、その、好きで」
「あの、すみません、俺そんな気は全くないんすよ…」
小さく(とは言ったが楽とほぼ変わらない)可愛らしい先輩の顔が曇る。
「やっぱり…恋人がいるって噂は本当なんですか…?」
「あ、え?」
そんな噂があったのか。
もしやこういうことを減らすために白兄達が流してくれているのかな。どういう言い方なのかは気になるが、恋人ってことは彼女とも彼氏とも言ってない感じか?
「あー……うん、まあそんなところっすね」
「好きな人…とか?」
「……」
なんでかわからないが今更兄貴のことを好きだとハッキリ認めるのが少し小っ恥ずかしい自分がいる。そんな楽なので言葉に詰まる。
「……と、とにかく、先輩とは付き合えないっす……すみません」
「あ、はい…玉砕覚悟だったので…こちらこそすみません……振ったこと、気にしないでくださいね!」
俺が余程申し訳なさそうな顔だったのか、そんな言葉を今にも泣きそうな笑顔とともに残して走り去っていった。
気にしないでください、か。
案外いい人かもしれないな。好きになることはないだろうけど。
「なんだ、結構いい感じの子だったじゃん」
少し間を置いてどこからか出てきた樹に、びくりとして振り向く。
「樹……お前……悪趣味だな」
「アンタに言われたくないなぁ」
「俺のどこが悪趣味なんだよ」
「兄貴のこと」
「あーあー待て待て学校でその話は無しって言ったろ」
はいはい、といつものツンとした態度で返された。
「…樹的にはアリだったんだ?」
「あの先輩?まあ悪い人ではなさそうだったよね」
「まあな」
「別に俺も現時点で好きになるかと言われればNOだけど」
「そっかぁだよなぁ」
「…楽って真面目だよね」
「は?俺?えっどこが?」
「いや…ちゃんと相手の気持ち、自分の気持ちを見てるっていうか」
「あー」
「その辺の…男どもとは確かに違うよね」
「……まあな」
珍しく下の話をしているであろう樹に、お前そういうことわりと知ってんだな、純情天使じゃなかったのな、と多少失礼な関心の仕方をする。
性欲処理は正直間に合っているのでそっちに走ることがないだけ、かもしれないが、どの道長男がいる限りは他と寝ようなんて微塵も思わないわけで。
ていうかわりとマジな話、女で勃つかどうかも怪しいのだ。遊ぼうとか簡単に思えない。
「やばいな…」
「何が」
「今ちょっと男として危機感を感じた」
「とっくの昔に捨ててると思ってたんだけど」
「おいコラ」
「どうせ女役なんでしょ?」
「うっ……」
嘘がつけない癖もなんとかせねばならない。
「別に俺としては俺以外の兄弟全員がデキてて?近親相姦パラダイスだなんてことは?興味もないしどうでもいいんだけど?」
「なんか…ごめんな…」
「巻き込んでこないだけマシだと思うことにしてるからいいよ」
「お前いいやつだな」
「双子16年目にしてやっと気づいたの?」
近親相姦なんて単語を知っていたことに驚きつつ、いい兄弟を持った…と拝む楽。やめてよ、と言われた。
「それにしても、ほんとによくあんな兄貴なんかを…」
「悪ぃかよ。…あんなでもすげーいい奴なんだからな」
「いい奴なのは知ってるよ。何年弟やってると思ってるの」
「そりゃそうか」
「俺が言ってるのはその、恋愛対象としての話」
そろそろ教室に戻ろうと階段を降り始める。
「…俺もよくわかんねぇんだよなぁ」
「え」
「なんつーか、普段親代わりだったり長男を完璧にこなしてんじゃん?その分、素の部分というか、年相応の顔が見えるとちょっとキュンとするっつーか」
「ギャップ萌えってやつ?」
「かなぁ。あと見た目あんなに中性的なくせにいざ恋人として振舞った時の男としての色気が半端ねぇ」
「……わかったもういい惚気は聞きたくない」
「話振ったのお前じゃねーかよ」
「うん、だからわかったって」
聞いた俺がバカでした!と耳を塞ぐ樹。
そのまま次の階段を降りようとしたその時、
「……っ、」
「っぶねぇ…大丈夫か?」
「…うん」
足を滑らせかけて、楽に手を掴まれた。
「はーー…気をつけろよな……俺がついてんのに大事な弟に怪我させるとか、笑えねぇから」
「………」
「無事でよかった」
「…ちょっとわかった」
「何が?」
「楽が女子からもモテる理由…」
「へ?」
この雨立楽とかいう男、変なところで男前なようだ。
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