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四男のセコム事情
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朝。
「楽…その中にあるのって…」
「あぁ…」
ちょっと前ほぼ同じ会話をした気がするなぁ、なんて思いながら俺は下駄箱の中に入っていたノートの破られたページを取り出す。
「今の時代こんな嫌がらせも頻繁にあるのなぁ」
「それも楽が特殊なんだと思うよ」
「うーんそうなのかぁ」
紙にでかでかと汚い字で「死ね!!」と書かれているのをまじまじと見つめながら、語彙の欠片も感じねぇな、と呆れる。
この前フった子のことが好きな奴とか?もしくはただの妬みか?
前者だとしたら、いや後者もだけど、そりゃこんなことするような奴のこと普通に好きになれるわけねーだろ?うーん、シンプルに馬鹿なのか?
隣で何故か俺より樹が嫌そうな顔をしているが、生憎俺はこういうのに慣れている上に心底どうでもいい、で片付けられる。
憂鬱のため息ではなく呆れからくるため息を一つ吐き、紙をくしゃくしゃと丸めて廊下のゴミ箱に投げ入れた。
「最近なくなったと思ってたけど、未だにいるんだね楽にあーゆーのしてくる奴」
「誰かが飽きてもまた誰かが始めるんだろ〜暇だよなほんと」
「そうだね。見てて気分悪いからやめて欲しい」
「ごめんななんか」
「は?なんで楽が謝んの」
「いや…なんとなく」
「誰がどう考えてもしてくる奴が100%悪い」
「はは、そーだな」
樹って普段クールだけどこういうときはすげー優しいんだよなぁ。いい子だよなぁ。
「おはよ〜」
「おはよう」
「お、双子の登場だ」
「ははっ、んだよそれ」
「ああ、らっくんおはよ」
「おー恋華、俺らより早いの珍しいじゃん」
「うるさいよ、僕だってたまには早起きするの。それよりこれ、何があったの?誰かに盛大に喧嘩でも売ったの??」
「あ?…あぁ」
「その顔は何か知ってる感じだねぇ?」
「いやさ…さっき下駄箱に…」
恋華が指さした俺の机の上にも、さっきと同じような語彙力底辺の罵倒が貼ってあった。
似たものが下駄箱に入っていたことを話すと、恋華も嫌な顔をした。
「はー…絶対ばかだねソイツ。らっくん敵に回すとどれだけ怖いか知らないんだよ」
「うえ!?俺そんな怖いか!?」
「…楽本人っていうか、その周りが、だよ」
「えぇ…樹まで……ってどういう意味」
「……なんでもない」
樹と恋華の機嫌が悪くなったのを感じて、なんとなく大人しく席に座った。
机に直接書くんじゃなく書いた紙を貼っておいてくれるあたりまだ優しいだろ、なんて思いつつビリビリに剥がしてゴミ箱へ。
正直、好かれようとすると同時にその分一部に嫌われることは覚悟して過ごしているので、本当に俺としては嫌がらせするだけ時間の無駄だと思っている。
その時間を好きな人に宛てるラブレターの文面を考える時間に費やせばいいのになぁ。
あ、好きな人居ないのかな。もしくは恋人持ちなのかな。それかただ単に暇なのか?
……まあとにかく、俺のことを嫌いな人のことはもちろん俺から好きになろうとは思わないので、切り捨てて生活しようと心に決めているわけで。
嫌いな人を憎む時間より、大事な人と楽しく過ごす時間が多くなるほうが俺としては幸せだから。
直接接触してきたらまあ、それなりの対応はさせてもらうけどなぁ……こんな匿名でされても受け流すしか出来なくね……?
なんてぼんやり思っているうちに始業の鐘が鳴り、いつもの日常が始まった。
「楽、毎回思うけど呆気らとしすぎじゃない?」
「へ?」
昼休み、いつも通り樹の机に集まると話が振られた。
「朝のアレ。マジで何も思わないわけ?大丈夫?神経正常?」
「いやそりゃ嫌だなーとは思うけどな?それで騒いだり落ち込んだりしたらそれこそ嫌がらせしてきたやつの思惑通りじゃね?そうなるほうが気に食わねえからさ」
「君ほんとにあのらっくん?」
「あのってなんだよあのって」
「昔から感情的になりやすいイメージあったから…」
「そっか、恋華と楽が同じクラスの時にこういうことってあまりなかったんだ」
「あーなるほどな。うん、毎回こんな感じで流してんだよ。確かに自分でも感情的になりやすいタイプだとは思うけど、それは急に喧嘩吹っかけられたりとか目の前に相手がいる状況での話で」
「ああ〜そういうことなんだ」
「あれだ、顔の見えない匿名相手だと冷静になれんだよ」
「へえ、意外だった」
「まあそれなりに腹は立つけどな。態度に出したら負けだと思ってる」
「あ、そうなんだ…」
「やった奴にとっても無駄な時間だけど俺にとっても片付けたり一々捨てる時間が無駄なんだよ俺の平和な日常にスパイク履いて踏み込んでくるな帰れ、って」
「土足がレベルアップしてる…痛い…」
「あと俺は良くても周りが嫌な気分になるみたいだからやめてくれ、とも思ってる」
「なるほど自分より周りか」
「楽らしいね」
「そーか?」
机にでかでかと貼られていたせいか、今日はクラスのやつ数名から心配の声がかけられた。
俺は逆に心配をかけそうな愛想笑いでも軽く笑い飛ばすのでもなく至極冷静に、できるだけどうでもよさそうに「あぁ、うん。そういや貼られてたな。俺は大丈夫だから」といった感じのことを答え続けた。
幸い、だいたい皆が「そっかーならいっか!」とか「大丈夫じゃなくなったら言えよー!」とか「楽のくせにかっこつけちゃって〜!このこの〜!」と明るく返してくれるので俺も変に気負わずいられた。いい友達を持ったな。
そもそも根本的なところへの疑問なのだが、嫌がらせをしてくる相手はあんなにド直球で死ねと書いて本当に死んでくれるとでも思っているのだろうか?
だとしたらいよいよただの馬鹿にしか思えないが……殺意があるのなら直接向ければいい。本当にそれで死ぬかはわからないが。できればそんなことで死にたくはないし。
うーん、ただ気分を害したいだけなら他にも方法はあるだろうに。
「思ったんだけどさ」
「ん?」
「なんで俺よりお前らのがイラついてんだ?」
「バカだこの人」
「バカだね」
「なっ…!」
「逆で考えてみなよ。もしくは楽のポジションが兄貴だった場合」
言われた通り想像してみる。
樹や恋華が嫌がらせの被害にあっている……兄貴のもとに死ねと書かれた手紙……
「…よくわかった」
「でしょ」
「んなことになったら俺が犯人見つけ出してぶっ飛ばしてやる…ぜってー許さねぇ…」
「ふは、自分がされるよりやる気って」
「俺の大好きな奴らがそんなことされるくらい嫌われてるってことがまず気に食わねえな!」
「ははは、でしょ?」
「急にいつもの楽が戻ってきたみたいだね」
「…そんなにらしくなかったのかよ?」
「うん」
「すごい冷めた目してた」
「ええ、まじか」
「感情的でバカっぽいほうがらっくんらしくていいよ」
「褒めてんのか貶してんのかどっちだよそれはぁ!」
「さあどっちでしょう」
俺達のはははという笑い声が教室を満たしていく。
うん、やっぱ俺はこっちのが好きだ。
放課後。
このまま何も起こらず今日が終わると思っていたが、予想は外れた。
ただやはり犯人は馬鹿だったことは予想通りだった。
「調子乗ってんじゃねえぞ雨立」
犯人であろう男子生徒2人に捕まりました。
油断しすぎたな、反省。
「ちょっと顔が良くて可愛くて女子に人気があるからってなぁ、」
「待て待てお前らには俺がそんな風に見えてんのかよ」
「あ?誰が見てもそうだろ」
「ははは、ははっまじかぁ」
「笑ってんじゃねえぞ状況わかってんのかよ」
「いやー、だって俺のこと嫌いな奴からもそんな風に見えてるなんて想像もしてなくてさ。顔が良いだって……ふふっふはは」
「何がおかしいんだアァ!?」
「妬む理由がそれって、ガキすぎて相手にしてらんねぇなって思ってさ」
「お前ぇ…!!!」
顔も良くないし可愛くもないし女子に人気が特別あるわけでもないと思うのだが、と言いたかったんだけど……あーあやっぱ直接話すとだめだな、冷静になれねえ。
というか口じゃ余裕ぶっこいているが、実際のところ俺より1回りデカイ男2人に壁に追い詰められているためわりとやばい状況だ。面倒な奴らに喧嘩売られちまったなぁ。
うーん、どーすっかな。
……あ、そうだ。うまくいけばいいけど。
「ふ、俺可愛く見える?」
「あぁ?」
「おれ、かわいい?」
わざと小首を傾げながら上目遣いで聞いてみる。こういうことすっからぶりっ子とか言われんだよなぁ。
「そ、それがなんだよ…」
「そっかぁ可愛いのかぁ。……そんな可愛くてか弱い男のコこんなとこに追い詰めて、何するつもり…?まさか楽のこと襲う気…?」
極めつけの一人称名前だ。
気持ち悪ぃ!というセルフツッコミを心の中で入れるが、これがまあ案外有効だったりするわけで。
「襲…っ」
「やーっこわいよぉーっ楽このまま襲われちゃうんだぁーっ誰か助けてぇーっ!」
「ちょ、おま、やめろ!デケェ声出すな!」
「わーーんっ楽に酷いことする気でしょーー!エロ同人みたいに!!エロ同人みたいにぃ!!!」
笑いそうになるのを堪えつつ、流石にやりすぎか?と思い顔色を伺うと、奴らが気持ち悪くニヤリとしたところだった。
「……そんなに襲われてぇんなら望み通りにしてやろうか?」
「ひっ…」
今のは素の悲鳴だ。
「…顔面ボコボコにするつもりだったけど、気が変わった。こっちのが屈辱的だろうしな」
「だな」
「や、え、嘘…いや……っ」
「大人しくしてろよ」
「へへ、喜べお望み通り酷くしてやる」
「やぁ…っ!!」
殴られるのが1番嫌だったのでこっちに誘導してみたが、これはこれで最悪の極みだな。
でもまあ初っ端からボコボコにされて跡が残るよりはいい気がする、多分。
だってそんな傷なんか持ち帰ったら兄貴がどんな反応するか…下手したら転校とか言い出しかねないしな。
片方にがっちり押されつけられ、もう片方に乱暴な手つきで制服の前を開けられる。
そして早速ベルトに手がかけられたので、それだけはやめろ!と今出せる全力で抵抗。
「や、だぁ…っ!やめろぉ…っ」
「へへ、やめろって言われて大人しくやめるやつがいるかよ」
「思ったよりエロい体してんなお前…」
「うるせぇ気持ち悪ぃ見んな目潰すぞ変態」
「口が悪いな」
「すまんあまりに気持ち悪くてつい本音が」
「生意気なのもこれはこれで…」
ひぇ、コイツらまじかよ…萎えるどころか……。
「でもうるさいからとりあえずお前ので塞いでやれ」
「おっけ〜」
「は!?え、正気かよおま…やめ…っ!」
塞げと言われた方がベルトを外しかけたその時、
「さーてと、今の録画を学校側に提出したら君たちはどうなるでしょーか」
「!?」
「どっから出てきた…!?」
スマホをチラつかせて壁の影から姿を現せたソイツがニヤリとする。
「あのねぇ、楽をいじめていいのは僕らだけだから」
「そ、アンタらにその権利ないから」
「ははっ、おせーよばーか」
やっと出てきた恋華と樹が鮮やかに男2人を地面に押さえつけて、俺は解放された。
さっさと服を着直して、恋華達に礼を言う。
「な、んでお前らがここに…」
「最初から居たんだよ〜」
「楽に何かあったら俺が兄貴に怒られちゃうし」
「そうそう、何かあると困るんだよね」
「それにしてはマジで出てくるの遅かったけどな」
「いやぁ面白くてつい」
「おい、友達がレイプされかけてんのに面白いからって見てたのかよおい」
「ははは〜ごめんね」
「全然思ってねぇだろそれ」
「とにかく、コイツに手出したら俺らと兄貴達とその他が動く可能性があるってこと、しっかり念頭に置いて行動した方がいいよ。アンタ達の為にもね」
「らっくんのお兄さんやばい人だから多分。下手したら君たち消されるよ?」
「いやそんなことはないけどな。至って普通の主夫だけどなアイツ」
「でも暗殺者の目してるときない?」
「あるか?」
「あれ?」
誰の話をしてんだコイツ。まあいいや。
「くそっ…」
「朝のあれも君たちなんでしょ?本当にああいう頭の悪そうなことやめた方がいいよ〜相手にもされないから」
「そーゆーのが気に食わねえんだよ…っ、すました顔で受け流しやがって……!」
「えーー何それ俺のせいなわけ?」
「楽は悪くないって」
「100%コイツらのせい」
「つーか相手にされたきゃもうちょい手の込んだ嫌がらせしてこいよな〜生ぬるいっつーの」
「ちょっと、挑発はやめなよ楽」
「どうせこいつらの頭じゃ手の込んだ嫌がらせとか浮かばねぇだろ?」
「あぁ、確かにね」
「バカにしやがって…!」
「バカにしてることはわかるんだね〜」
「お前らァァ……!!」
「ごめんな、こいつらこれが普通なんだわ。許してやってくれ」
「いや一番に馬鹿にしてたの楽だよ」
「紛れもなく筆頭だったよ」
「同感だ」
「俺も」
「えぇ…?まじ……?ごめん無意識」
「一番タチ悪いな」
「えへへ〜ごめんごめん」
そうして恋華と樹に散々注意されたあと、男達は解放され、そそくさと帰っていった。
俺はというと、口を挟むとややこしくなるからしばらく黙ってろと樹に言われてしまい、2人が説教している間は大人しく見ていた。
いやー、この2人こえーな。
1体1とはいえ自分より1回りもデカイ男押さえつけられるんだもんな。敵に回さないようにしなきゃ。
「助かったぜ、さんきゅ」
「おうよ!存分に感謝するがいい〜」
「俺も怒られずに済みそうだしね。まあ未遂とはいえあんなことがあったのは隠した方が良さげだけど」
「それな。つか恋華よく面白がって見れてたよな」
「まあね〜まさかああなるとは思ってなかった」
「殴る蹴るより早く止めに入ってくれそうだなぁと思ってさ、なんか、ごめんな?あんなとこ見せて」
「ぶりっ子が面白かったので許す」
「あざっす」
「樹もさんきゅ、俺のためにあんな…かっこよかったぜ」
「……あのまま襲われてしまえばよかったのに」
「照れ隠しか!?それは照れ隠しなのか!?」
「うるさいさっさと帰るよバカ楽」
「ええ!?」
「あはは、そんじゃ帰りますかっと〜」
「だな」
そうして無事、俺達は帰路についたのだった。
「らっくん!今日学校でなんかあったでしょ!大丈夫なの!?」
「…兄貴はエスパーか何かなのか?」
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