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五里霧中 修
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「あ……あんっ…あああーーっ!」
うるせぇんだよ。
俺に言い寄ってくる女に、俺は必ず言う。
「俺はお前が好きじゃない。
絶対、お前を好きにはならない。」
それでもいいと、女達はみんな足を開く。
そんな女達に、俺はまったく興味がない。
でも、ぬくもりが欲しい時、欲望が抑えられない時、
そんな時にはやっぱり都合がいい。
「ああ~~~っ!や、もっと、早くーーっ!」
ああ、うるさい。
こいつ、体はいいんだけど声がな~。
智はきっと、こんな声は出さない。
もっと、甘く、軽やかな……。
『うふふ。修君……き…て?』
そんな風にちょっと恥らって、耳障りのいい小さな声で……。
喘ぎ声もきっとそんな感じで……。
『あ……ダ…メ……あんっ…しゅ……も…っと……。』
なんて言って。
ダ、ダメだ。考えただけでイキそうになる。
「イクーっ……イッちゃうーーーーーっ!」
バカ。早ぇんだよ。
ったく仕方ねぇなぁ。
智……。
『しゅ……君……おい…ら……も…イ…ッちゃう……!』
「いいよ。イッて。気持ちよくなろう?」
俺は腰の動きを早くして、集中する。
「あっああ~~~あんっ!」
女がイッたのを確認して、目をつぶる。
智…俺もイクよ?
俺は智への想いを一気に放出する。
「はぁっ!……ん…んんっ。」
打ち付けた腰を止め、吐精感を味わう。
智……。
ゆっくりと引き抜いてゴムを外すと、ベッドに横たわる。
「ふぅ……。」
「ふふふ。すっごくよかった。」
女は俺の腕に自分の腕を絡める。
俺はそれを振り払い、ベッドから降りる。
「今日は、朝までいてよ。」
「……明日も仕事、早いんだよ。」
俺は振り返って答える。
「あたし……別れたから。」
「別れた?」
「うん。別れた。彼と。」
ばかか?こいつは。
「それじゃ、俺ともこれで終わりだね。」
「え?」
「新しい彼氏見つけた方がいいよ?」
シャワーも浴びずに着替える。
「あたしじゃダメ?」
俺は笑って女を見る。
「俺は誰も好きにならないから。」
そう、智以外は。
そして、永遠に叶わない俺の想い。
「うそ。好きな人、いるでしょ?」
女はクスクス笑う。
「いつも大事そうに手帳にしまってある写真。」
俺はビクッとする。
「勝手に見るなよ。」
「見てないよ。でも、こっそり見てるのは知ってる。」
女は笑い続ける。
「とんだチェリーボーイね。」
「チェリーボーイ?」
「好きな人とエッチもできないんでしょ?」
そうだよ。たぶん、一生できない……。
だから、お前達女がいるんだろ?
「それじゃ童貞と一緒。」
女は笑いながら、タバコに火を点ける。
ああ、そうだね。確かにチェリーボーイだ。
バカだと思ってた女が、意外にバカじゃなくてびっくりする。
俺の理性を維持する為、欲望を満たすだけの行為は
どう考えても愛の営みにはならない。
「じゃぁな。いい男見つけろよ。」
「あなたもね。チェリーボーイ卒業できること祈ってる。」
女は口から白い煙を吐いて、ニヤッと笑う。
「うるせぇ。大きなお世話。」
俺は最後にジャケットを羽織って靴を履く。
「あたしは結構、好きだったよ。」
だから、もう二度と会わないんだよ。
「俺も、お前の体は好きだったよ。」
振り返らずにそう言うと、背中に枕が当たる。
俺はそのままドアを開ける。
外の空気はヒンヤリしてて、今の俺にはちょうどいい。
空を見上げると、上限の月が輝いていて、
こんな時間なのに無性に智の声が聞きたくなる。
ポケットから携帯を取り出す。
何度も躊躇いながら、それでも電話をかけてみる。
「プルルルル……。」
呼び出し音がなる。
やっぱり掛けるんじゃなかったと、携帯を耳から離した拍子に声が聞こえた。
「もしもし……修君?」
慌てて耳に当てる。
「ごめん……こんな時間に。……寝てた?」
「ううん。大丈夫。描いてたから。修君は?」
ああ、智の声は気持ちいい。
「俺は……ちょっと酔ってるのかな?」
「うふふ。飲みすぎちゃダメだよ。」
俺が酔ってるのはお酒じゃないよ。智。
「ん…もう帰って寝るから。」
「気をつけてね。……おいら迎えに行こうか?」
「大丈夫、大丈夫。もうすぐだから。」
今すぐ会いたいよ。会って抱きしめて……。
「そっか。……久しぶりに修君の声が聞けて嬉しい。」
俺は智の声を聞いて苦しいよ。
「俺も。近いうちにご飯行こうよ。」
「うん。楽しみにしてる。」
「じゃ。」
「おやすみ。」
智が電話を切ったのを確かめて、俺も携帯を畳む。
また空を見上げる。
智の声に一喜一憂する俺は、本当にチェリーボーイだなとおかしくなった。
智の声が、まだ耳に残っている。
智が電話の向こうで微笑んでる姿が、俺の目の前を掠める。
空に浮かぶ月が満月に見えて、俺は両手の甲で目を隠した。
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