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宵③
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額に浮かぶ汗を拭いながら無心で筆を動かしていると、空の青色と木の緑色が混ざり、なんともいえない色になってしまった。
ー…まぁいいや、もう全部混ぜちゃおう
誤魔化すように緑色を足して、乱雑に塗りつぶす。
これはこれでアーティスティックじゃないか、と自分に言い聞かせながら。
「まぁ!あなたの作品とても素敵ね!」
誰か褒められている。いいな。
だが返事がない。まあ確かにハイテンションな彼女に反応したら巻き込まれそうだもんな。
─よし、あとは地面を塗って…
「あなたよ、あなた!」
美術教師の高らかな声と同時に、肩が強く揺さぶられた。
―え、俺?
「普通の青空や夜空でなく、宵の時間のような空……これは藍色なのかしら?
絶妙な空模様で、とても独創的な表現だわ」
「は、はぁ…どうも」
適当にやった作品がべた褒めされると途端に恥ずかしくなるのは何故だ。
うわ、みんな見ている。やめてくれ。
しかし芸術というものは不思議だ。『独創的』という言葉を使えば、失敗作もそれなりに見えるのだろうか。
「あなた、名前は何と言うんでしたっけ?
すみませんね、私忘れっぽいもので」
入学して何ヶ月経ったんだ、生徒の名前を忘れるとは教師としてどうなんだ、と心の中で重箱の隅をつつくような独り言を呟く。
その間に彼女は名簿を持ってきて、興味津々といった感じで俺を見ていた。
「…月島です。
月島宵。」
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