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煩悶④
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「ねえ」
声のする方を恐る恐る振り返ると、
さっきまで片耳にはめていたイヤホンを指先で遊ばせながら笑う男がいた。
「ごめんごめん、そんな顔しないでよ、何回も声掛けてるのに反応しないから」
「あぁ…すいません。気付かなかった…っす」
彼の足元を見て緑色の上履きを履いていることに気付き、慌てて敬語を使う。
緑色は2年生の学年カラーだからだ。
「いいよ、かなり熱中してたもんね、歌もギターも上手いね。経験者?」
「一応…趣味でやっている程度ですけど」
「ふーん、そうなんだ」
イヤホンを手に押し込む形で返されると、彼はおもむろに隣に座った。
「よくここに来るの?」
「いや、そんなに……
悩みとかあったり何か忘れたいなーってことがある時に来るくらいで」
「そっか、じゃあ今は悩みがあるんだね?」
「……」
せっかく忘れかけていたのに、そう尋ねられたおかげで思い出してしまった。
バツの悪い顔をしていることに気付いたのか、彼は苦笑してから話を変えた。
「君、入学したときから目立っていたよね」
「え?そうなんですか、何で?」
「…無自覚か、それはタチが悪いなあ」
「俺何かやらかしましたっけ?」
「ううん、何も。こっちの話だから気にしないで」
再び笑ってから手を差し出し、握手を求めてきた。
「僕は白崎俊(スグル)。2年5組。これからよろしく」
「…1年2組、月島宵です。よろしくお願いします…」
俺をじっと見据えるような瞳は、
何故だかとても不気味で、一抹の不安を感じた。
ざわざわと高鳴る胸騒ぎを、どうか気のせいであってくれと祈るほどに。
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