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放課後になった。
病人もどきでゆとりのあった俺は、会議の開始時刻に遅れないよう、たっぷり十五分は余裕を持って会議室へと向かった。
扉を開ける。中には誰もいないと思っていたが、一人でパソコンと対峙している委員長の姿があった。
委員長が、ふと顔をあげる。
「折原か。早いな」
「委員長には負けますけどね」
俺は苦笑いを浮かべながら扉を閉める。本当に、この人は、一体いつ来ているのだろう。
他人に厳しく自分に優しい人間はいくらでもいる。委員長はそんな人間を心底嫌っているからこそ風紀委員に選ばれたのだろうと思う。だからこそ俺は委員長を尊敬しているのだが――。
「俺に勝とうとでも思っていたのか? あとで身の程や分際といった言葉を調べておけ」
「ははは、俺はいつだって委員長様の背中を追いかけてばかりですよ」
苦笑いが引き攣る。乾いた笑い声が部屋に拡散。委員長はフンと鼻を鳴らして再びタイピングを始める。
――どちらかといえば、尊敬というよりは畏敬に近いのだ。
それゆえに二人きりという状況は非常に空気が重い。俺は溜め息をつきたいのを我慢、いつもの定位置へと腰かけた。相変わらずタイピングの音だけが響いている。
「そういえば」
委員長と二人きりだからだろうか。朧気ながらも階段で助けられた記憶がよみがえる。大きな背中だったということだけ、やけにはっきり覚えていた。
「この間はお手数をかけました」
「……ああ、」
今思い出したとでもいうような沈黙と声音が続く。
「てめェの健康管理も風紀委員の務めだ。次はないからな」
「……はい」
確かに、男に生まれた以上、自分のことは自分で済ませなければならない。そこまで考えたところで、委員長の言う“健康管理”という枠内を越えようとしていることに気づく。
……いや、まあ、健康に生きていくうえでは必要なことなんだろうが。抜くことを怠って倒れかけた俺は口を閉ざすほうが利口だ。
「あー、保険医が来るまでついていてくれたそうですね」
思考をごまかすように話題を飛躍させる。
――あ、れ。
そうして、はたと気づく。
俺が保健室にいることを知っていた人物。意識のないときに傍にいた人物。
そのどちらにも、委員長が当てはまっていることに。
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