アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
夜道
-
20時。
仕事を終えて、俺は家路を急いでいた。
いつも職場まで迎えに来てくれる奴が今日は残業だからってことで、一人で帰るのは本当に久し振りだ。
……いい歳して恥ずかしいけど一人で帰るのはちょっと怖い。
この時間ともなると人通りはないと言ってもいいし、薄暗い上に街灯なんてまばらだ。
闇に紛れようと、黒いコートをまとって早足で歩いていたが、ふと気配を感じ取って目を細めた。
目元近くまで深くかぶっていたコートのフードを引っ張って、ほんの少し速度を速める。だけど少し遅れてそれも速度を上げてきた。
……誰かが、俺をつけてきている。
顔を上げて前方を注視すると、誰かがこちらに向かって歩いてくるのが見える。
俺はさりげなく右へと曲がったが、耳を澄ましてみたところ、案の定後ろの奴もついてきたようだ。
おそらく前から歩いてきていた人も仲間と見えるが、俺に気付かれたくらいだからどうやら素人さんらしいところがまだ救いである。
「めんどくせえな……」
俺は舌打ちをこぼし……、走り出した。
突然走り出したことに動転したのか、少し遅れて後ろの人物も駆け出してきた。
俺は走りながらそれを確認して、再び道を曲がって細い路地に入る。
「早くしろ!逃げられるぞッ!」
焦った男の声が響く。
俺を追って男が路地に入ってきた瞬間、男の横面を思い切り蹴っ飛ばす。案の定、出会い頭の攻撃を避けられず、その身体は容易によろめいた。
暇を与えない。
ヒュッと風を切りながら、俺は護身用に隠し持っていたナイフを素早く取り出し、男の首を切りつける。
その瞬間に男は目を大きく見開いた。
「ッあ、あぁあ!!」
男は顔を真っ青にして傷口を押さえているうちに、俺は再び駆け出した。
「死んじまう、死にたくない」
「早く止血をしてくれ」
「痛い痛い痛い」
男の情けない声が静かな路地を響いて聞こえてくる。
追ってくる者がいないことを知ると、俺はとうとう我慢出来ず笑ってしまった。
「バカみてえ」
あんなの痕も残らないただの擦り傷程度なのに、男をパニックにさせるには十分だったようだ。
もう大丈夫だろうと走るのをやめてナイフをしまったとき、自分の手が震えているのに気付いた。
……気付いてしまうとじわじわと襲い掛かってくる恐怖。
夜道をつけられたことか、それとも擦り傷とはいえども人の首を切ったことか。
なにに対して恐怖を覚えているのか自分でも分からなかったが、寒くもないのにひたすら二の腕を摩った。
それから、走って家に帰った。
父さんは……まだ帰ってきてないみたい。
家の中に入るまでは良かったが、灯りがついていないから、手探りでランプを探す。
あっちこっち身体をぶつけながらなんとか明かりを灯すと、ぼうっと辺りが照らされ、ようやく人心地ついた。
脱いだコートを椅子にかけて、リビングのソファで横になりながら灯りを眺めていると、次第に眠くなってきた。寝たらダメだと分かっていても、そう思うと余計睡魔が襲ってくる。
この眠たいときが気持ちいい……。
瞼がゆっくりと閉じていく。
そのとき、玄関の扉が叩かれた。
「ッ……!」
びっくりして跳ね起きた。
一瞬父さんが帰ってきたかと思ったけど、鍵もかけてないのに父さんがノックなんてするわけないし、おそらく違う。
……鍵、かけてない……?
さあっと血の気が引いていく。
さっきのこともありながらなんて自分はバカなのか。家に帰ったことで安心してしまった。
足音を立てぬよう注意しながら、玄関の扉の前まで行く。
まさか、さっきの奴らがつけて来たわけじゃないかと考えたが、すぐに首を振った。そんな気配なかったし、もしそうならわざわざ扉を叩いたりなんかしない。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 141