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赤い髪の母
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目を開けると、俺は俺と目が合った。
一瞬ギョッとしたが、なんてことないただの鏡だった。
俺は鏡の前の椅子に座っていて、ここがどこなのか分かった瞬間、これは夢だと悟った。
夢だ。俺が子供の頃の、夢。記憶、過去。
鏡にはもう一人の人物が写り込んでいて、俺の両肩に手を添えながらにっこり微笑んだ。
「レイ、そのまま前を見てて」
緩くウェーブのかかった腰まである長くて赤い髪。大きな黒い瞳と、色白な肌。
俺の母さん……ヴァネッサ・ギーツェン。
「ふふ、レイの髪はとってもサラサラしてて触り心地がいいわ。ママに似たおかげね」
母さんが俺の髪にクシを通しながら「なんてね」とイタズラっぽく笑った。
俺は母さんに似た。
赤い髪も、黒い目も、白い肌も、全部全部母さんに似た。
「ママは赤毛だったからヘルゲン家の一員になれたのよ」って母さんは言う。
孤児院で育った母さんは、赤毛を気に入ったラルスの両親が引き取って育てたらしい。だから母さんは自分が赤毛であることを恥じるどころか、誇りに思っていた。
『魔女』と呼ばれて石を投げられても。
だけど俺は……自分の髪が大っ嫌いだ。
それは子供の頃からずっとずっと、今でも好きになれないし、この先もずっと嫌いなままだと思う。
ただ髪が赤いだけで『魔女の子』と呼ばれて仲間外れにされる。
俺にわざと聞こえるように悪口を言う。
クラスメイトの誰かが怪我をすれば、俺のせいにさせられる。
大人になった今、時代の流れと共にそう言う人も少なくなったが、赤毛は物好きな金持ちに売れるという噂が立ち、人攫いに襲われるようになった。
……俺がなにをしたんだろう。
俺は、ただここにいるだけなのに。
「ヴァネッサ」
男の声が聞こえて振り返ると、母さんがクシを置いて立ち上がっていた。母さんの視線を追いかけてみたら、今よりも少し若いラルスが部屋の入り口に立っていた。
「あら、兄さん。予定よりちょっと早かったんじゃないかしら?」
「ああ、仕事が早く終わったから」
母さんが嬉しそうに微笑みながら、ラルスに駆け寄る。二人はなにか話していたが、その内容は聞き取れなかった。
なんだか取り残されてしまった俺は足をブラブラさせていたが、ラルスが俺に気付いて笑顔で手を振ってくる。
「レイ、兄さんがケーキを買ってきてくれたって。下に降りてみんなで食べましょう」
それに合わせて母さんも長い髪を耳にかけながら振り返った。そのとき、母さんの耳元がキラリと光る。
金色の華奢なチェーンに、小さな柘榴石が繋がったイヤリング。あれは……、確か、ラルスが母さんに誕生日プレゼントとして送ったイヤリングだ。
そのイヤリングは、母さんが笑うたびにキラキラ光りながら、小さく揺れた。
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