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狩り
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「なんだ、レイ。浮かない顔して」
隣を歩いていたラルスが心配そうな顔で覗き込んでくる。
ラルスはこういうときはすぐに気付くから、ほんと目ざとい。
「ははーん、さては緊張してるな?」
「……まあ」
あんまり突っ込まれたくなかったから、俺は適当に合わせた。
本当は、ただの寝不足である。
昨日父さんに酷いことを言った罪悪感からなかなか寝付けず、そのせいで昔の夢を見た。
そのせいで全然寝た気がしない……、本当はちゃんと睡眠を取って、万全な形で今日を迎えたかったのに。
鳥の囀りが聞こえて顔を上げると、俺の頭上を小鳥たちが飛んでいった。
俺は20歳を迎えた。
20歳になったと同時に猟師になった。
猟師になった理由は特にないが、あえて理由つけするとすると、父さんもラルスも猟師だったから幼い頃から銃に触っていたため。
特に父さんは街一番と言われるくらいの猟師で、みんなのリーダー的な存在だ。
そして今日は、初めての狩りの日。
いつもの黒いコートを着て、目立つ赤い髪をフードで隠す。背中には買ったばかりの新品の猟銃を背負っていたが、触り慣れたそれがいつもより重く感じた。
父さんを先頭にして、俺を含め計5人が一列になって森を歩く。
今日のメンバーは、俺と父さんとラルスの他に2人。みんな年上で、俺なんか比べ物にならないくらい経験豊富。
下っ端の俺は足を引っ張らないように、列の一番後ろを歩きながらほんの少しだけ見える父さんの後ろ頭を眺めたが、すぐに顔を俯かせた。
父さんとはあれから一言も話していない。
朝起きたら父さんはいなくて、集合場所だった街の門に行くとすでに待機していた。
こんな日に気不味くなりたくなかったから謝ろうと思ったけど、他の猟師と話をしていたから話しかけられなかった。
……そんなに俺と話したくねえのかよ。
父さんの口数が多くないのは昔からのことだったから慣れていたはずだったが、なんだか傷付いた。まあ、俺が昨日あんなことを言わなければ良かっただけなんだけど……。
「ほおら、身体から力を抜け!」
ラルスが俺の肩に腕を回してくる。
あまりの大声に耳がキーンとして、前を歩いていた男がジロリとこちらを睨んできたが、気付いていないんだか、はたまた気にしていないんだか、ラルスは大きな声で笑った。
「まあ、俺も初めて猟に行ったときは緊張したなぁ。なんつって、クシェルに色々怒られた記憶しかねえけど」
「ラルスも緊張なんてすんの?」
それにはびっくりした。
俺の中でラルスはいつもヘラヘラしているから緊張とか不安とかないと思っていた。
「失礼なやつだなっ」と、ラルスがわざとらしくムッとした表情をうかべる。
「初めてつーか、俺は基本森に入るときは緊張してる」
「え、いつも?」
「まあな」
「なんで?クマでも襲ってくるわけ?」
そのときラルスの表情がほんの少し引き締まった気がした。
また表情を作ってるのではないかと思ったけど、ラルスは重々しく口を開いた。
「この森には……」
「人喰い狼がいるから」
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