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狩り
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ぽつん。
雫が落ちてきて、俺の鼻先に当たった。
「……雨だ」
顔を上げると厚い雲が空を覆っていた。
1箇所目で捕らえたシカと共に猟師二人が先に街へと戻って、残った俺は父さんとラルスの3人で他の罠を見て回った。
しかし、3箇所の罠を見てきたがどれも獲物が引っかかった気配はなくて、父さんとラルスは残念そうにしていたけど、俺は安心していた。
……さっきの足が千切れたシカを忘れられない。
ザアアッと音を立てて一気に雨が降ってくる。
父さんが銃で仕留めたタヌキを掴み、鬱陶しそうに空を睨んだが、すぐに森の奥を指差した。
「もう少し行った先にも罠を仕掛けておいた。そこを見てから森を出るぞ」
雨くらいで父さんがさっさと帰るわけがなかった。
逆らえるはずもなく父さんの言う通りにしようと思ったが、ラルスは俺が被っていたフードを引っ張って更に深く被らせながら、首を横に降った。
「ダメだ、雨が降ってきたんだぞ。俺らはいいかもしれねえが、レイはまだ猟に慣れてねえんだから……」
それを聞いて、父さんの表情が一層険しくなる。
こんなところで喧嘩になる……、俺は大丈夫だからと口を開きかけたが、それを察したのか、ラルスが俺の腕を掴んで自分の後ろへと引っ張った。
「クシェルだって風邪引いたら大変だろ。戻ろう」
「……ふん」
珍しく父さんの方が折れた。
父さんは仕留めたタヌキをラルスに押し付け、来た道を戻り始めた。
「……ごめん、ラルス」
俺はなんて役立たずなんだ。
あまりにも小さな声だったみたいで、雨音に消し去られて、ラルスの耳には届かなかったようだ。
ラルスは振り返り、「早く下山しよう」と言った。
雨脚は良くなるどころか、悪化してきた。
俺は前を歩くラルスに急いでついていこうとして、何度も足を滑らてヒヤッとした。ラルスが手を繋ぐかと聞いてきたが、もし俺が転んでしまったらラルスまで巻き添いにする可能性があったから断った。
俺はフードを取って、頭を左右に振った。コートが雨に濡れて重い……もしもシカを捕獲していたらもっと大変だっただろうと思う。
「レイ、あと少しだ。もう少し頑張ろうな」
子供に話しかけるみたいなラルスの言葉に、今回ばっかりは救われて、俺は黙って頷いた。
結構奥まで来ていたから、街に戻るにしても時間がかかる。今は……お昼頃だろうか。不思議と腹は減っていないが、雨で濡れたせいで寒気がする。
これで風邪なんて引いたら父さんになんて言われるだろうか。そんなことばかりを考えていた。
突然、先頭を切って歩いていた父さんが振り返った。
まさか心の中を読まれたんじゃないかと思ってヒヤッとしたが、まるでなにかの気配を探るように、周囲を見渡している。
「どうした、クシェル」
俺とラルスもつられて周りを見たが、これといってなにかあるわけでもなく、やがて父さんは「なんでもない」とだけ呟いて再び前を向いた。
ラルスと顔を見合わせる。
父さんは、勘が鋭い。
なにかの異変を察知したのかもしれないが……、俺らにはさっぱり分からない。だけど父さんの歩くスピードがほんの少しだけ上がった気がする。
俺とラルスも自然と早足になった。
寒い、寒い……動いているはずなのに、雨のせいで身体の体温が奪われ、特に手足は冷たい。
「っわ……!」
突如空が光ったかと思えば雷が鳴り、俺はびっくりして……、思い切り滑って転んで、頭を打ち付けた。
情けないかな、俺はこのとき意識を失ったのである。
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