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森に住む男
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熱い、頭痛い、だるい、しんどい、喉乾いた。
部屋に一人残されてから寝ようと努力したが、ちょっと寝ると目が覚めるということを繰り返していた。そのせいで全然寝た気がしない。
身体が熱くて布団を蹴飛ばす。だけど次に起きたときにはきちんと肩までかかっているから、キオンがちょこちょこ俺の様子を見に来ているらしい。
……見た目によらず、料理も得意みたいだし、世話焼きだ。
再び浅い眠りから目を覚ますと、ちょうどキオンが俺の額に載せていたタオルを水に浸していた。
「いま、なんじ……?」
喉がカラカラなせいで掠れた声しか出なかった。
キオンが顔を上げて、俺のことを細めた目で見る。
「昼過ぎ。水飲むか?」
「うん……」
キオンが俺の身体を支えてくれたから比較的スムーズに起きれたが、座ってからの方が辛い。頭がぐわんぐわんする。
水を取りに行ったキオンが戻ってくるまで、折った膝の上に額を押し付け、顔を俯かせていた。
すぐにコップを手にしたキオンが戻ってきて、それを受け取ると一気に水を飲み干した。冷たい水が乾いた喉を潤して……、俺はふうっと息を吐き出した。こんなに水が美味しいと思ったことはないかもしれない。
「レイ、なにか食べるか?」
「うーん……」
相変わらず食欲はない。
「朝からなにも食ってねえんだから、そろそろ胃に物を入れねえと……。果物なら食うか?」
果物なら食べれそう。
俺が頷くと、キオンは空になったコップを持って出て行った。
いたれりつくせり。
こんなに汗をかいているのに全然ベタベタしないかと思えば、いつの間にか着ていたシャツが新しいのに変えられているし、枕カバーも交換されている。
なんといっても、それらに関してわざわざ言うわけでもなく、さり気なくやってしまうところがすごい。
「リンゴとブドウがあったんだが……」
そんなことを考えていると、キオンが果物の乗った皿を持ってきた。
一粒一粒が大きいブドウに、皮がウサギの耳の形に切られたリンゴ。……ウサギの耳。女子か。
「……可愛いな」
思わず頰が緩んだ。
うさ耳が可愛いというよりも、体格のいい男が器用にリンゴを切ってきたのが、なんか可愛い。
だけどキオンはリンゴを褒められたと思ったのか、得意気に鼻を鳴らしている。
「シチューもすごく美味しかったし、器用なんだな」
「まあな。料理とか、細かい作業は好きだ」
ほんと人は見かけによらない。
可愛いリンゴにフォークを刺して、シャクシャク音をさせながら頬張る。とっても甘くて美味しい。ブドウはちょっと酸っぱかったけど、リンゴが甘い分うまく釣り合いが取れている。
「美味しい」と言うと、キオンは安心したように優しげな顔で頷いた。
だけどやっぱり起きているのがしんどくなって、ブドウとリンゴを半分食べたところでまた横になった。
「また食べたくなったら言え。リンゴならいくらでも切ってやるから」
「……なんか、悪いな」
赤の他人なのに、なにからなにまで面倒を見てもらって申し訳ない。
俺が眉を下げると、キオンは布団越しに俺の身体をポンポンと叩いた。
「そういうときは謝るんじゃなくて礼を言え。はい、ありがとう。言ってごらん」
「あ、ありがとう……」
「よし、いい子」
半ば強引に言わされたようなもんだが、キオンは満足気に一つ頷いた。
「他に欲しい物は?」
キオンはベッドの端っこに座りながら首を傾けた。
水も飲んだし、果物ではあるがご飯も食べた。
なにもないと首を振りかけたが、ふと思うことがあって動きを止める。
「あ、あの……」
「なんだ?」
言うかどうか迷って視線を彷徨わせる。
「迷惑ならいいんだけど……、」
布団の中から右手を出して、キオンに差し出した。
「……俺が眠るまで、そばにいて」
嫌な顔されるんじゃないかと不安になって、眉を寄せながら小首を傾げる。
キオンは一瞬ポカンとした顔をしたが、すぐに手を握りながら俺の顔を覗き込んできた。
「ああ、分かった。こうしてる」
「ん……」
俺の手を握るキオンの手は少し冷たいけど、熱があるからすごく気持ちいい。頭を撫でてもらったとき思ったけど、やっぱりキオンの大きな掌は俺を安心させてくれる。
だけど手を繋いでくれなんて、風邪を引いてる今じゃないと言えないな、と思った。
「ねむれ、そう……」
ゆっくりとキオンの手を握り返すと共に目蓋を閉じていくと、キオンがもう片方の手で汗で張り付く俺の前髪をかき上げる。
俺は「おやすみ」と言ったつもりだったが、それはとても小さな声になった。
だけどキオンはそれをちゃんと聞き取ったようだ。
「……ゆっくりおやすみ、レイ」
静かな声で呟いたキオンの声を聞いて、俺は眠りについた。
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