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狼
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俺はぎゅっと拳を握った。
「……俺は、あいつに聞かなきゃいけないことが沢山あるんだ。なんで嘘をついて俺のことを小屋に連れてきたのかとか、それから……母さんのことも」
「ヴァネッサのこと……?な、なあ、レイ。お前は、さっきから何を言っているんだ?」
ひどく混乱しているのか、ラルスは緩々と首を傾けながら俺のことを見ていた。
「あとでちゃんと説明するから……!」
言うより早く、俺はキオンを追ってレストランを飛び出す。
どこからか、悲鳴が聞こえる。
どこからか、銃声が聞こえる。
それがどこから聞こえているのか、分からない。
父さんたちが先にキオンのことを見つけたら、間違いなくキオンを殺すだろう。
その焦りから石畳のちょっとした段差に足を取られ、バランスを崩す。危うく転びかけるが、なんとか持ちこたえて走るスピードを上げていく。
俺は掌の汗をズボンで拭いながら、父さんとキオンがどう行動するかを考えた。
父さんはまず、街の門を猟師らに見張らせるだろう。そしてそれはキオンも予測しているはず。だからキオンは森には向かわず、街のどこかでチャンスを伺っているはずだ。
どこか……人気のないところで。
路地や人の住んでいない家を重点的に探し始めた。
その途中、腕を負傷している猟師の男が他の猟師に手当てしてもらっているのを見かけ、そういえばと周囲を見渡した。
「……銃声が、やんだ」
耳を澄ましても聞こえてこない。
それはキオンを見失ったからか、はたまた……。
小さく唾液を飲み込んだ。
俺は最悪のケースを頭の隅に押しやり、ひたすら街の中を走った。
それから路地を探しながら通り抜け、廃屋をいくつか見て歩いた。父さんも俺と同じことを考えていたようで、廃屋の一つで父さんらと危うく鉢合わせになるところだったが、すんでのところで隠れてなんとか回避した。
キオンを殺したい父さんと、キオンを殺させまいとする俺。
多分今の状況でなにを言っても父さんは聞く耳を持たないだろう。無駄な争いをして時間を無駄にするよりも、父さんたちよりも先に見つけることを最優先にしなければ。
俺は誰かに見られていないことを確認してから、再び路地に入った。
高い建物に挟まれていて、昼間でも陽の光が射し込まなくて薄暗い。そして人通りもほぼなく、普段は用心して絶対歩かない道だ。薄気味悪く、だからこそ身を潜めるには好都合でもある。
俺が歩く足音が聞こえるだけで、すごく静かだ。
そのとき、なにかの気配を感じて振り返った。
「……なんだ、ネコか」
金色の目をした白猫だ。それを見た瞬間どっと身体から力が抜けて、小さく息を吐き出す。
その白猫は俺の足元を通り過ぎるとき、口からなにかを落としていったのだが、薄暗くてそれがなにかが分からない。目を凝らして煮干しだと気付いて顔を上げたが、白猫は煮干しを落としたことも気付いていないみたいに一目散に駆けていった。
食料を落としていくほど急いでいたなんて、猫の集会にでも遅刻しそうなのだろうか。
「……なんてな」
思わず頰を緩める。
そのとき背後から伸びてきた腕が俺の腰へと回されたかと思えば、俺は悲鳴をあげる暇もなく、見知らぬ家へと連れ込まれた。
「猫が好きなんて知らなかったな」
耳元で囁かれた声に、身体が震えた。
肩越しに恐る恐る振り返れば、人の姿をしたキオンが立っていた。
「お、おま……な、な、なんで」
まさか相手から目の前に現れてくれるなんて予想もしておらず、驚きやら疑問やらが一気にきて、スムーズに言葉が出てこない。
「幽霊でも現れたみてーな反応だな」とキオンは笑って俺から身体を離した。
そこで猫が慌てて走っていった理由がわかった。
人ならず獰猛な獣の気配を感じ取り、それから逃げていたのだ。
素っ裸だったキオンは椅子にかけられている膝掛けを腰に巻いたかと思えば、自分の家のように戸棚を漁ってリンゴを取り出した。
「レイも食うか?」
「っ、バカか!そんなもん食ってる場合じゃねえだろうが!」
俺の怒鳴り声を聞いてもキオンは対して気にすることもなく、椅子に腰掛けてリンゴを齧り始めた。
それを見て愕然とする。
なんだか1人で焦っている俺がバカなんじゃないかと思うくらい、キオンはお気楽というか、おかしいくらい落ち着いていた。
「そ、そもそも、ここはどこだっ?ここの家主はどこにやった!?」
俺はハッとして家の中を見渡す。
普通の民家のようだが俺たち以外の人の気配が全く感じられず、まさか家主を……?そうだ、わざわざ誰もいない家を探すよりも、そっちの方が手っ取り早い。
一瞬で血相を変えた俺を見て、キオンはフンと鼻を鳴らした。
「殺してなんかねえよ……。ここの家主は、ついさっき財布を持って出て行った。大方買い物にでも行ったんだろ」
「ニンゲン様は食べ物を金と交換するんだろ?」と、キオンは首を傾けた。
ならいいか……いや、良くねえ。
キオンに食ってかかろうとしたが、キオンの腕から血が出ているのを見てハッとした。
「っそ、その腕……」
人の家だと分かっていながらも、包帯かなにかがないかを探してしまう。
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