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狼
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キオンは自分の腕を見て「ああ」と今気付きましたと言わんばかりの薄い反応を見せた。
「気にすんな。こんな傷、すぐに治る」
「は、はあ?なに言って……」
そういえば、あれだけ撃たれたのに出血しているのはその腕だけだ。確か太腿を父さんに撃ち抜かれたはずなのに、血が出ていないどころか傷なんていくら探しても見当たらない。
「俺は少し丈夫に出来てんだ。ほっとけ」
思い当たる節はまだあった。
小屋で俺が割った皿の破片を踏んだあとも特別いたそうな素振りは見せなかったし、頰を傷つけたときもその傷は気付いたら跡形もなく消えていた。
圧倒的な身体能力だけじゃなく、再生能力も高いというのか。
「つーか、レイ。バカなのはお前だよ。こんなところを丸腰でウロウロ、なにをしていた?まさかほんとに猫探してたわけじゃないだろ」
「……猫じゃない、犬探しだ」
それを聞いてキオンは目を瞬かせた。
「ほう……犬か。その犬探しの途中、運悪く狼に遭遇して喰われてしまうとは思わなかったのか?」
俺はキオンの前まで歩み寄り、その椅子の肘掛けを思い切り蹴っ飛ばした。
「喰わなかっただろうが。気絶した俺を森で見つけたときも、小屋にいるときも。……お前は、一体なにを考えているんだ?俺にはお前が狼じゃなくて、本当に犬に見えるんだが」
「は、あんな姿を見てよくそんなことが言えるな」
キオンが半分食ったリンゴを床に投げつけた。
「無理矢理犯されて泣いてたくせに、これ以上調子に乗るなよ、レイ。俺は本当にお前のことを喰っちまうことだって出来るんだからな。……お前をここに連れ込んだのも、喰うためかもしれねえんだぞ」
「なら喰えばいい」
俺はキオンの腕を引っ張って、強引に自らの首に触らせた瞬間、キオンの身体が強張ったのを感じた。
「首を食い破って、血を吸って、肉を食べればいい」
「……なぜそんなことを言う」
「なんかムカつくから」
「ああ?」
「っ、だから!お前がなに考えてんのか分かんねえからムカつくんだよッ!ぶっ殺されてえのか!!」
なんかもう、色々考えることに疲れてしまった。
「強姦魔」「鬼畜」「デカチン」「自分勝手」など自分でもなにを言ったか覚えていないくらいの暴言を吐きまくり、キオンのことを罵った。
キオンは鬱陶しそうに顔を顰めていたが、なぜかデカチンと言われたときは嬉しそうに緩んだ顔が更に頭にきて、掴んだキオンの手を乱暴に離した。
すると今度はキオンから俺の手首を掴んできた。
「そんなこと言ってるけど……震えてんぞ」
ドキッとして思わず視線を外す。
「ふ、震えてなんか」
「震えてる。ほんとは俺のこと怖いんだろ」
キオンが舐めるようにゆっくり俺のことを見上げ、俺と目がかち合うと口角をつり上げた。
「だが、俺が人狼と知ってもそんな態度取るのはお前が初めてだ。……あの夜がそんなによかったか?」
カッと頭に血がのぼった。
「そんなんじゃねえッ!!」
こいつのこういうところが本当にムカつく……!
「離せ!離せクソ野郎!強姦魔!!死ね!!」
「褒めるな褒めるな」
キオンの手を引き剥がそうと暴れるが、キオンはがっちり俺の手を掴んで離さず、俺の様子を見て楽しそうに笑みを深める。
「まあまあ、落ち着けよレイ。物音に異変を感じて誰か来たらどうする」
……ズルい。
そう言われて押し黙る。
確かにここで2人になれたというのに、邪魔者が入るのは避けたい。
ギロリとキオンのことを睨みつけ、俺は大人しくすることにした。
キオンはクッと喉の奥から笑い声を漏らした。
「そんなむくれた顔すんな。子供か」
「むくれてなんかいねえ。んなことよりも、キオン。俺は、お前に聞きたいことがあってきたんだ。さっさと答えろ」
「んー……」
キオンは掴んだ俺の手首を引っ張って、俺の掌で自分の頰を触らせ始めた。
なにやってるんだ、こいつは。
「お、おい、お前……俺の話聞いてんのか?」
「聞いてる」と言いながら、今度は俺の手の甲にキスをしてくる始末だ。
「やめろ……っ」
また腕を引っ張ってみるが離す気配は微塵もなく、俺はもう片方の手でキオンの身体を押しやってみようと思ったが、そうやって両方掴まれたら元も子もない。身体に力を入れて我慢する。
「お前、言ったよな。罪滅ぼしで母さんのことを教えてくれるって」
「ああ……そうだな、そういえば確かに言ったな」
そこまで言うと、キオンはぽんぽんと腿を叩いた。
「レイ、ここ座れ」
「……あ?」
あまりにも唐突で、どういう意味なのかすぐに理解出来ない。
だがキオンは俺から手を離して、もう一度自らの腿を叩いた。
「座れ」
まさか膝の上に乗れということじゃないだろうな。
多分すごい顔をしているであろう俺の顔を見ながら、キオンは低い声で囁いた。
「座ったら、教えてやる」
まさに、悪魔の囁きである。
俺はキオンの足を思い切り蹴っ飛ばした。
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