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狼
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素足を蹴られて流石にキオンも痛そうにしたが、その顔を見てもやり過ぎたなんてちっとも思わなかった。
「なんでわざわざ乗らなきゃいけねえんだ。どうせお前のことだから……」
途端にキオンに抱かれたときのことがフラッシュバックして、言葉が詰まる。
「と……とにかく!嫌だ!!」
「さてはお前、俺にヤラシーことされると思ってるからそんなこと言ってんじゃないだろうな」
「そッ、それ、は……」
俺の思っていたことを言い当てられた。
キオンは「ふーん」と言いながら顎をさする。
「それはつまり、俺のことを意識している、ということか?意識してねえんだったら、そんなこと考えないもんなぁ」
「……意識なんてしてない」
「じゃあ、乗れるよな」
自分で自分の首を締めてしまった。
そもそも俺にそんなことを思われる原因を作ったのはこいつ自身じゃないか。しかしそう言えば言ったで、「自意識過剰だろ」って言われそうな気がする。
だけど……こいつがなにを考えているのか分からない。
俺はキオンの顔とキオンの腿を見比べる。
「ほ……ほんとに、なにもしない?」
キオンは目をまん丸くした。
「おいおい、さっきまでの威勢はどうした?ほら、早く来いよ」
「っ、俺の知りたいこと全部教えるんだろうな?」
「ああ、教える」
そうは言われてもキオンの言うことが信用出来ずに動けないでにいると、焦れたキオンがコートを引っ張ってきた。
「俺は罪滅ぼしでお前の母さんのことを教えると言った。そしてお前は「信じてやる」と言っただろ?俺の言葉を信じろよ」
「……クソ」
それを否定すれば、自分の言ったことを否定することになる。
こいつは本当にズルい男だ。
俺は苛立ちを抑えきれず、グシャグシャと自らの髪を掻き乱す。
そして結局キオンの言うことを聞いてしまった。
「お、重くねえのかよ……」
向かい合って座るなんて多分恥ずかしすぎる。
そう思って背中を向けてキオンの腿の上に腰掛けたのはいいものの、全体重をかけることに躊躇してつま先を床から上げられずにいると、キオンが俺の腰に両腕を回してぎゅうっと強く抱き締めてきた。
「ひゃ……っ」
「抱き締めただけだろ。なんて声出してんだ」
「もっとすごいことシただろ」と、キオンは耳元で囁いた。
恥ずかしさやら悔しさやら、様々な感情が入り混じって、肩越しに振り返ってキオンのことを睨みながら「クソ野郎」としか言えなかった。
だけどキオンには聞こえてないようだった。
いや、聞こえてないわけがない。こいつ、聞こえないフリしてやがる。
「レイ、お前は太れ。その方がもっと抱き心地がよくなる」
「アホかッ」
こんなの最初で最後だ。
キオンは俺のことを抱き締めながら、俺の背中に頰を押し当ててきた。こんな抱き締められ方なんてされたことがないから、さながらぬいぐるみになった気分である。居心地が悪いったらありゃしない。
落ち着かなくて視線を彷徨わせる。
「お、おい、キオン……」
「……あんなに震えてたくせに」
キオンは前に回した手ですっぽりと俺の手を覆い、そして強く握り締めた。
「震え、止まったな」
言われるまで気付かなかった。
キオンが小さな声で「俺のことまだ怖いか?」と尋ねてくる。
目を閉じればすぐに、大きな灰色の狼のことを思い出すことが出来る。
鋭い歯も、太い尾も、琥珀色の目も、全部全部……。
こいつはムカつく男だ。なにを考えているか分からない不気味さも兼ね備えている。
だけど、どうしてだろう。
俺は眉尻を下げながら、キオンのことを見つめた。
「怖く、ない……」
手を握ったキオンの指がピクッと動いたかと思えば、急にキオンが顔を寄せてくる。
瞬きをして次に目を開けたとき、キオンの顔が目と鼻の先にあった。
いや、鼻先は触れ合っていた。
頭が真っ白になる。少し遅れて状況を理解する。
俺は、キオンにキスをされていた。
大きく見開いた俺の目を、キオンは覗き込んでいた。そのあまりの近さからキオンの琥珀色の瞳に映る自分の顔まで見えた。
「ッ……!」
ぬるっとした生温かなものが俺の唇を舐めてきて、咄嗟に顔を逸らそうとする。
しかしキオンはそれを見越していたのか、俺の横顔を掌で覆って頭を固定してきた。
逃げられない。
ちょっとしたパニックに陥って足をバタつかせて踵でキオンの足を蹴ったが、キオンはすぐに睨み返してきてお返しとばかりに俺の唇を噛んできた。それは甘噛みだったが噛まれたことに驚いて薄っすらと開いた唇の隙間から、キオンの舌がするりと滑り込んできた。
「ん、ッ」
俺の歯並びをなぞるようにゆっくりとキオンの舌先が動き、俺は驚きのあまりびくりと肩が跳ねた。
首を捻らせた状態の上に、キスなんてしたことがないから呼吸も上手く出来ない。
息苦しくて表情を歪める俺とは対照的に、至って涼しい顔をしているキオンは俺の頭を抑えつけるというよりも自分の方へと押し付けて、ちゅっちゅと音を立てて俺の唇を吸ったかと思えば、引っ込めていた俺の舌を絡みとり、口付けの深さを増していく。
身体が、ビリビリする。
電気なんて走っているわけがないのだが、腰あたりに痺れる感覚を覚える。なんか、身体が変だ。
「ふ、っあ……んんっ」
頰が真っ赤になった。
やっぱり変だ……!
自分の喉から、自分じゃないみたいな声が出る。しかも甘ったるくて、まるであのときの夜みたいな……、
不意にシャツの中にひやっとした冷たいものが潜り込んできて、俺の肌を撫でた。
「ッや……だ!」
その瞬間、キオンが慌てて口を離す。
俺がキオンの舌を噛んだからだ。
頭を押さけつけていた手が離されて立ち上がろうとしたが、腰に回された腕が俺のことを離さなくて立ち上がることが出来ない。
そして、もう片方の手は俺のシャツの中に突っ込まれていた。
キオンの冷たい手で素肌を撫でられ、俺は慌てた。
「な……なんも、しないって……!」
「んなこと言ってねえ」
「どこの口が、」
そこまで言いかけ、さっきの会話を思い出す。
そういえば俺の知りたいことには答えるとは言ったがなにもしないとは言ってねえな……。
「ッズルい!!」
地団駄を踏んだ。やっぱりキオンの腿に座ること自体が間違いだったのだ。
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