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隠し事
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俺は突然のことに、暫し呆然とした。
母さんのこと。それが、ここにいれば分かる?
そんなバカな。
そこでハッとした。
まさか、俺をここを閉じ込めている間に逃げる気じゃないだろうな!
あのズル賢い狼が考えることだ。十分にあり得る。
「おいキオン!」……そう言いながらクローゼットから飛び出そうとしたが、
「よお、遅かったな」
キオンが誰かに声をかけた。
それが俺に向けられたものではないということくらいすぐに分かって動きを止める。
物音が聞こえる。足音……そうだ、足音。
本当に人が来た。
俺は足音を聞いて、さあっと血の気が引いていくのを感じる。
言わんこっちゃない。やっぱり裏口から出て行けば良かったのだと思ったが、キオンの口振りに違和感を感じて首を傾ける。
クローゼットの扉をそっと押して、指が一本くらい入る隙間を開ける。そこから片目を覗かせて部屋の様子を伺うと、キオンが呑気に足を組んで椅子に腰かけているのが見えた。
「どうしてここにいるのが分かった?」
まるで友達に話しかけるような気さくさである。
誰だ、誰に話しかけているんだ?
その僅かな隙間から右目で見たり、左目で見たりしているが、微妙な角度で見えない。
考えられるとすれば……いや、思いつかない。話し方からしてここの家の人ではないのは分かるが、人狼であるキオンが街に知り合いがいるとでも?
「っ!」
そのとき、俺は危うく声が漏れそうになって、慌てて両手で口を塞ぐ。
椅子に座るキオンの後ろ頭に、ハンドガンの銃口が押し付けられたのだ。そしてその銃を握る人物がようやく口を開いた。
「……レイが、そこの路地に入っていったのを見た人がいた」
……えっ?
まさか自分の名前が出てくるとは思わず、心臓が大きく跳ねた。そしてそれよりも、俺はその声に聞き覚えがあった。
キオンは銃を突きつけられながらも、顔色一つ変えなかった。
「ほう、そうなのか。人違いってことはねえのか?」
「赤毛は目立つし、レイが追っていたお前がここにいるのがなによりの証だ。お前は俺らから攫っていったほどレイに執着しているのに、こんなチャンスを見逃すわけがないからな」
「つまり、レイはここにいるって言いてえのか?」
しらばっくれるキオンの頭に、ゴツッと音がするくらい強く銃口が押し付けられた。そのおかげで銃を握る人物が前のめりになり、ようやく顔が見えた。
「レイを……レイを、どこにやったんだっ?」
金の髪に、頰の傷。……まぎれもない、ラルスだ。
レストランで強引に別れてから、俺のことを探しに来たんだ……!
馴染みの顔を見て咄嗟にクローゼットから飛び出そうとしたが、キオンが横目で睨みつけてくる。
鋭い目だった。危機的状況にあるのは頭を狙われているキオンのはずなのに、逆にラルスを人質に取られたような感覚に陥って身体が強張る。
そうだ、冷静に考えれば、こんな下半身裸の状態で出て行くわけにはいかなかった。
俺が動きを止めたのを見透かしてか、キオンの目が細められる。まるで「良い子だな」とでも言っているみたいで腹が立つ。
キオンはふっと視線を外し、肩越しに振り返ってラルスのことを見上げる。
「さっきからレイレイってうるせえな……ここには居ねえって、」
そこまで言いかけて、突如キオンの口角がニィッとつり上がる。
「いや、いたけど食っちまった」
はあ!?
思わぬキオンの言葉に危うく頭をぶつけそうになる。
なにを言ってんだと、キオンのことを睨みつけてみるものの、睨まれた本人は澄まし顔である。
そのときラルスが「嘘をつくな!」と怒鳴った。
「だったら連れ去った時点で喰っただろうが!」
ごもっともである。
俺はそれを聞いてホッとした。
冷静に考えてみれば、それはそうだ。食うと言ったら食料的な意味合いだと思うのが普通なのに、キオンのせいで変に焦ってしまった。
するとキオンがニヤニヤとしながらこちらを横目で見ていた。「なに慌ててんだ?」と言わんばかりの顔に殺意が芽生えて中指を立てて見せると、キオンはフンと鼻を鳴らした。
「じゃあ俺からも言わせてもらうが、なぜお前は人喰い狼の目の前に一人で現れた?」
そういえば……俺は隙間から部屋の中を出来る限り見渡した。確かにラルスは一人だ。
外に誰かいるのかもしれないとも思ったが、キオンなら気配で察するだろう。そのキオンが一人で来たと言うんだから、本当にラルスだけなんだろう。
ラルスはそれには答えようとせず「レイはどこだ」とそればかりを繰り返した。
「だから、レイは居ねえって言ってんだろ。ここには俺しかいない」
呆れたみたいに、キオンは大きく溜息をついた。
「ほんとはレイがいるかじゃなくて、レイがいないかを確認しに来たんじゃねえか?」
キオンがそう尋ねると、ラルスの目が大きく開いた。
俺はキオンの言っている意味が分からなかった。
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