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匂い
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キオンが猛スピードで駆けていく。
やがて俺は、下唇を噛み締めて目を伏せた。
いくら記憶を手繰り寄せてみても、思い当たる節がないのだ。
俺は……イズミさんに、名を名乗った覚えがない。
赤毛のせいで、街の中で俺のことを知らない人間はいない。しかしイズミさんは出会ったとき、この街に来たのは初めてで土地勘がないと言っていた。つまり、イズミさんはここの人間でない。
キオンがイズミさんの前で俺の名前を呼んだわけでもないし、だからイズミさんが俺の名前を知っているわけがないのに。
イズミさんは……何者なんだろう。
「ッいで!!」
なんの前触れもなく突然キオンの肩から下ろされ、俺は地面に背中を打ち付ける。
「て、てめえ、いきなりなにすんだよ……ッ」
痛む腰を摩りながら周囲を見渡すと、俺らは路地の突き当たりにいた。
「あいつになにかされたか?」
キオンは俺のことを見下ろし、静かな声で尋ねた。
さっぱりなんのことか分からない。
「な、なにかって……なんだ?」
「みなまで言わなきゃ分かんねえのか」
突如キオンが俺の胸倉を掴んだかと思えば顔を寄せてきて、俺は息を飲んだ。
「ケツの処理、誰にさせた?」
「は、えっ?そ、そんなの、自分で、」
「お前の口タバコ臭い。お前、タバコは吸うのか?吸わないよな、ずっとずっとお前からタバコの臭いなんてしたことないのに」
あ、そうか。だからさっき俺の口元の匂いを嗅いで顔を顰めたのか。
「おい、質問に答えろよ」
キオンの腕に更に力がこもり、俺は渋々口を開いた。
「タバコの臭いは……、仕方ないだろ。イズミさんが吸うんだから、俺の身体だってタバコ臭くなる。それから、お尻の、処理は……」
なんてこと聞くんだ、こいつは。
風呂場で精液を掻き出したことを思い出して、顔が熱くなる。
「……じ、自分で、やった」
やらなければいけないことだったが恥ずかしさから声が掠れた。
しかし聞かれたことには答えたのだから、これで満足かとキオンのことを上目に見たのだが、キオンはまだ冷たい目で俺のことを見下ろしている。どうしてそんな目で見られなければならない?
「レイ、それは、本当か?」
俺は目を大きく見開いた。
「は……?な、なんで、疑うんだよ……」
「だってお前やったことねえだろ」
「確かにやったことねえけど……!」
「あの男にやらせたのか?」
その言葉でハッとした。
キオンはイズミさんの部屋で、俺がイズミさんとなにかあったのではないかと疑っているのか。
俺は呆れてため息をつく。
あんな人と俺がなにかってそんなもん、地球がひっくり返ったって……、いや、キス、されたな……。
だがあれは、俺がどうこうとかいうものではないと思う。イズミさんには好きな人いるし。
面倒くさくなりそうだからこのことに関しては黙っておくことにして、俺はキオンの腕を掴んだ。
「だから自分でやったって言ってんだろ。手ェ離せよクソ」
「……どうやった?」
「あ?」
「だから、どうやって処理した?」
「どうやってって、そりゃ、ケツに指突っ込んで」
そこまで言いかけて、我に返る。
「ッそ、そんなこと聞かなくたって、分かってんだろうが!!」
羞恥に頰が熱を帯びた。
こいつは初めて俺を犯したとき、俺が寝ている間に後処理をしたはずだ。だからわざわざそんな質問をしなくても絶対に知っているはずなのに、なぜそんなことを聞く。
「意地悪したくなった」……と、いつものキオンなら憎たらしい笑みをうかべて言うだろう。だが、今日のキオンは違った。
にこりと笑いもせず、冷ややかな目で俺のことを見ている。
思いがけぬキオンの反応に、俺は表情を強張らせる。
なにか、悪いことでも言っただろうか。
「レイ。ほんとに自分で処理したのか?」
キオンは念を押して、また同じことを聞いてきた。
「だから……そう言ってんだろ」
キオンのしつこさに呆れたのと、向けられた目があまりにも冷たくて、俺は顔を逸らした。
キオンの手がようやく俺の胸元から手を離し、息苦しさから解放されて小さく息を吐き出した。それも束の間、キオンはとんでもない言葉を口にした。
「じゃあ、やってみろ」
一瞬なにを言っているのか分からず、俺は動きを止めてキオンの顔を見つめる。
「やるって……な、なにを?」
キオンは分からないのかと言わんばかりに首を傾けながら、つま先で俺のズボンのベルトを突いた。
「自分で処理したって言うんだったら俺の前でやってみせろ。そしたら信用してやる」
「な……っ」
前から思っていたが、やっぱり頭がおかしい……!
「早くやれよ、レイ。また犯されてぇのか?」
その言葉に身体を強張らせた。
「な、なんで……」と俺が視線を彷徨わせると、キオンは苛立ちげにため息をつく。
「あ?聞こえねぇな」
キオンが俺の髪を掴んできて、強制的にキオンの方を向かされる。
「言いたいことがあるならはっきり言えよ」
キオンの顔は怖かった。その低い声は、俺を従わせる力がある。
だが、俺は、頭の中が混乱していた。
言うのを躊躇して一旦は唇を噛むが、腹をくくってキオンのことを睨み返す。
「な、なんで、キオンにそんなこと言われなきゃいけねぇんだ!?」
「あぁ?」
キオンの眉がピクリと動く。
殴られるかもしれないと思わなかったわけではないが一度言い出したら止まらなくなって、まるでせき止められた水が一気に溢れ出たみたいだった。
「いや、全然なにもなかったけどよ!でも、でも、俺がイズミさんとなにかあったとしても、お前には関係のないことだろうがッ!それをとやかく言いやがってお前は俺の親……いや、恋人気取りか、ああッ!?」
い……言った、言ってやった。言いたいこと。
ざまあみろ。脅せばなんでも言うこと聞くと思うな。
内心得意げになりながら、フーフーッと猫が威嚇するみたいに呼吸を荒くしながら、キオンを睨みつける。
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