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温もり
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俺は、つま先で思いっ切りキオンの足の脛を蹴る。
ちょっと痛そうな顔をしたキオンだったが、仕返しとばかりに更に腕に力を込めてくる。まるで俺のことを潰そうとしているみたいだ。
「ッ、痛い……おいバカ!いい加減にしろ!」
さっきからキオンは俺のことを抱き締めっぱなしで、離そうとしない。俺はぬいぐるみじゃねえんだぞ。
キオンの身体を押しやっても、足を蹴っても、意地を張っているのか、キオンは離してくれない。
苛立っていると、不意に頭の中に先ほど吐いた暴言が蘇ってきて、俺は舌打ちをすると、キオンの鼻先をカプッと噛んでやった。
勿論甘噛みだ。しかし、まさか本当に噛まれると思っていなかったのか、キオンは目を丸くしている。
「今度は本気で噛むからな!」
そのアホ面を睨みつけた……のも束の間、俺は顔を引きつらせた。
なぜなら、キオンのアホ面が溶けたんじゃないかというくらい緩々に緩んだ頰で、
「……レイから、初めてキスされた……」
「しかも鼻ちゅう」と呟いたからだ。
俺よりも頭一つデカい身体をした男が。
「はっ!!??」
予想外の言葉に、今度は俺が目を丸くする。
「違う、今の断じてキスじゃねぇ!」
俺は必死に否定する。今のがキスになるなんて絶対に認めねぇ。
しかしキオンは至極真面目な顔で首を振った。
「いいや、今のはキスだ」
「ちげぇ!!」
「キスだ」
「違うって言ってんだろ!ぶん殴るぞてめえ」
イラッとして凄んでみるがキオンには全く通用していないようだ。首を横に振って「キスだ」と繰り返す。
「だから……ッ」
「じゃあ、レイの言うキスってなんだ?」
どうして今になってそんなことを聞くんだろう。
俺は怪訝に思って首を傾ける。
「そりゃ、お前……お互いの唇をだな」
「うむ」
目を瞬かせる。
なぜなら、鼻先がくっつくくらいキオンが顔を寄せてきたからだ。
なるほど、だからそんな分かりきったようなことをわざわざ聞いたのか、とようやく気付く。
あまりにも近過ぎて、キオンの琥珀色の目に俺の顔が映り込んでいるのが見えたが、今の自分の顔もなかなかのアホ面である。
「……しねえからな」
そう言うと、キオンは露骨に残念そうな顔をした。
「すると思ったんだがな」
相当俺は流されやすいと思われているらしい。
俺はツンと顎をそっぽに向けて、顔を逸らした。
「それよりキオン。どうして俺をここに連れてきたんだ?」
キオンは少しの間のあとに「ああ」と呟く。
「……いや、特に理由はない」
「あ?」
「来たかったから……じゃ、ダメか?」
「いや、ダメじゃねえけど……ここ、好きだし」
……ほんとか?
なんだか、嘘をついて誤魔化されたような気がする。
キオンは嬉しそうに頬を綻ばせた。
「そうか……なら、また一緒に来よう」
なんだかその嬉しそうな顔を見ていると、追求することが出来なかった。おそらくここに来たのにはなにか理由はあるんだろうが……言いたくない?
「それよりレイ。そろそろ俺の小屋に行かねえか?どうせ来るつもりだったんだろ?」
「あ、ああ……まあ……」
頷くと、キオンは俺の手首を掴んで歩き出した。
俺はされるがまま、キオンの後ろ頭を眺める。
今、キオンはなにを考えているんだろう。
キオンの頭を見ていてもなにも思いつかず、俺は森の中を見渡した。
俺たちが歩く音以外、どこかにいるであろうフクロウの鳴き声しか聞こえない。
こんな暗い森の中、キオンがいなければ迷ってしまうだろう。なのになんのプランもなく、森の中に踏み込もうとしていた俺はアホだ。
少し歩いた先に、キオンの小屋が見えてきた。
キオンが先に入ってロウソクに火をつけると、暗かった室内がぼんやりと照らし出される。
俺はそれを見て、また戻ってきたんだなと自覚した。もう遠い昔のような気がする。
室内を見渡していると、キオンが俺の腰に両腕を回して、後ろから抱き締めてきた。突然のことに少し驚いて身体を強張らせたが、まあ、正直に言うとこの展開は予想していた。
ただ、小屋に着いたばかりなのにあまりにも早いなとは思ったが。
「……今度は、離せって言わないんだな」
キオンが俺の肩に顎を乗せながら呟いた。
「あれはお前が馬鹿力で抱き締めてきて、身体が痛かったからだ」
「じゃあ、このくらいの力だったらいいのか?」
キオンのことだ。ここで頷けば「レイは抱き締められるの好きなんだ!」と騒ぐだろうなあ……と簡単に予想出来た。が、俺は小さいながらも頷いていた。
だって、好きだ。
「お、まえは……身体がおっきいから、なんか……安心感がある。あったけえし……」
さっき好きだと言ったよりはマシだったが、やっぱ口にするのは恥ずかしい。
「……キオン?」
恥をかいたのに、一向に返事がない。
するとキオンは大きくため息をついた。
「急にデレるのやめろ……」
「ああ?それはいつもツンツンしろってことか?」
というか、俺だって好きでツンツンしてるわけじゃない。キオンがあまりにもこっぱずかしいことばかりをするから、つい口が悪くなるのだ。
……だから手やら足やらが出るのも仕方ない。
素直になりたいとは思っている。が、キオンを前にするとうまくいかない。キオンのせいだ。
「そんなこと言ってねえよ」
不貞腐れたように、キオンが唇を尖らせる。
「ただ、驚いただけだ」
俺は幽霊かなんかか。
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