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アルコール
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白い頰がほんのり紅潮していて、口は半開き。
大きな黒目は俺のことを見ているようで見ていない。ぼーっとしているのだ。
通りで言動がおかしいわけだ……。こいつ、酔ってやがる。
早くもレイに酒を勧めたことを後悔し始める。
「おい、大丈夫か?」
その頰をペチペチ叩いて反応を伺うと、少し間があったあと、レイが「まだたべれる」と答えた。
そんなことは聞いてないんだが……と思ったが、レイが物欲しげにテーブルに並んだ食事を眺めているもんだから、本当に食欲はあるらしい。
俺はレイのことを離して一旦席を離れると、水の入ったグラスと万が一具合が悪くなったとき用にバケツを持ってきた。
「レイ、水飲んだ方いいぞ」
多分レイは若さもあるだろうが、酒の飲み方を知らないんだと思う。じゃなかったらあんなに最初からガバガバ飲むわけがねえ(飲ませたのは俺だということは置いといて)。
今具合が悪くないとしても、飲みすぎは二日酔いの原因になる。ついでに言うとアルコールを摂取するとトイレに行く回数が増えて、脱水症状に陥りやすい。その水分の不足も水で行えるというわけだ。
酒と水を一緒に飲めば、体内に吸収されるアルコール量も減る。だから、酒と水は一緒に飲んだ方がいいのだ。
そう思って水の入ったグラスを差し出したが、レイはそんなの要らないと言わんばかりに顔をそっぽに向けてピザをもそもそと食べている。
その姿は可愛いが、可愛くない。
「レーイ」
テーブルを指先でトントンと叩きながら低くした声で名前を呼ぶと、レイの肩がビクッと震えた。
レイのその顔が恐る恐る振り返り、大きな黒目が俺のことを映す。
……あ。
レイの真っ黒な瞳に俺が映り込んでいた。俺だけが。
さっきはイライラしていたくせに、不覚にもそのことに優越感を覚え、身を乗り出して顔を近づけた。
瞳に映る俺自身と目が合うのが分かるくらい近くで、レイのことを見つめた。いつものレイなら恥ずかしがるなり、嫌がるなりして顔を背けるだろうが、今のレイはポケッとした顔で俺のことを見つめていた。
レイの黒い目に、吸い込まれそうだ。
「……キオン?」
俺を呼ぶレイの声で我に返った。
「あ、ああ……ほら、水を飲め」
俺がコップを差し出すと、レイは嫌々と首を振る。
「やだ」
レイの瞳に癒されたはずなのに、またイラッとした。
「なんでだ。齧るぞ」
イーッとして己の牙を見せつける。しかし相変わらずのボサッとした間の抜けた顔をしているもんだから、なんだか拍子抜けする。
「まったく……あとで具合悪くなっても知らねえからな」
俺がため息混じりにそう言うと、またしても「やだ」という返事が返ってくる。
俺は眉間に皺を寄せながら首を傾けた。
「ああ?お前はどうしたいんだよ」
今度は返事すらなかった。
あー、もう俺は知らん。酔っ払いにはなにを言っても通じない。
レイに苛立ち、俺はコップの水を捨てようとして踵を返す。その瞬間、後ろからドンッという衝撃を受けて俺は固まった。
腰の辺りに白くて細い腕がまとわりついている。そして背中に感じる温かみ。
ほんの少し身体を捻らせて背後の様子を伺ったのち、俺は額に手を当てて唸った。
レイが後ろから俺の身体を抱き締めていた。
それもぎゅうっと、回した手で俺のシャツを握り締めながら。
「どこ、行くの……?」
いつもの強気で少し乱暴な口調とは打って変わり、とても心細そうな小さな声だった。
あーもういい。どうなっても知らんぞ俺は。
レイが抱きついてきた衝撃でコップの水が少し零れて俺の手にかかったが、そんなことどうでもいい。
「分かった分かった、どこにも行かねえよ……ほら、レイ座れ。飯の続きをしよう」
レイの腕を離させて、再び椅子に腰かける。
するとレイの顔がぱあっと明るくなり、レイも席についた。というか、俺の股の間に座ったのだが。
……いや、ちょっと待て。座れとは言ったけども。
俺はレイのつむじをガン見しながら冷静になろうと努力した。努力しようとした。が、無理だった。
レイの身体を後ろから抱き締めてみると、一瞬レイの身体は強張ったがすぐに力は抜けて、俺の身体に寄りかかってきた。
レイが……あの、少し見つめただけで「なに見てんだよ」って睨んでくるレイが……今、俺に身体を預けているぞ……それもレイ自ら。
もしや夢ではないかとすら思ったが、この重みと温かさは紛れもない現実だ。現実なのだろうが……レイは酔っ払うと甘えん坊になるのか?
冷静なフリをして、何事もなかったかのようにレイの顔を覗き込んだ。
「レイ、具合は悪くないのか?」
レイはピザを口いっぱいに頬張りながら、ふるふると首を振る。あークソ、やっぱり可愛い。
それから俺はひたすらレイが飯を食っている様子を眺めた。いつもならこんなに見つめたら間違いなく怒られるだろうが、今日はどれだけレイを見ても黙々と食べている。
時折食べカスを俺の太腿に落とすが、そんなのどうでもよかった。レイが大人しく俺に抱き締められながら飯を食っている……その様子を目に焼き付けるので忙しい。
やがて腹が膨れたのか、レイが食べるのをやめてまたワインを欲しがった。
「いや……それ以上は飲まねえ方がいいぞ。今はいいかもしれんが、あとで具合悪くなるかもしんねえぞ」
「ならないもん!」
「もっと酔っ払っちまうかも……」
「酔ってない!」
いや、酔ってるっつーの。そして声デケェ。
レイが足をバタバタとさせて暴れるもんだから、俺の足を絡ませて動きを封じる。
すると今度は腰に回した俺の腕をつねり始めた。
レイに腕をつねられながら、俺はどうしたものかと頭を悩ませていた。
飲みたいというのであれば、レイの気がすむまで飲ませてやりたいが……具合を悪くしたら可哀想だ。
「だめだ」
強い口調で言うと、レイの動きが止まる。顔を覗き込んでみると、レイは不満そうに唇を尖らせて「キオンのけちんぼ」と呟いた。
それからつねるのをやめて、今度は俺の腕を引き剥がそうとしてくる。よっぽどだめだと言われたことが面白くなかったらしい。
「レイ、ワインじゃなくてジュースならあるぞ。ブドウのジュース」
機嫌を取ろうと、猫撫で声を出しながらレイの頰にキスをしようしたがプイッと顔をそっぽに向けられて避けられる。
まるで雷に打たれたかような衝撃が走った。
普段のレイならば避けられることも日常茶飯事だからそんなに傷付くことはないものの、あれだけ甘えてきた酔っ払いレイにやられるとショックだった。
今度は冷静さを失って、声をひっくり返しながら尋ねた。
「そ、それならリンゴは?オレンジだってある。な?なに飲みたい?」
「ワイン」
即答だった。
レイが振り返って、くりくりの目で俺のことを見つめてくる。やめろ、そんな目で見るな。
思わず顔を背けると、今度は腿に刺激を感じて肩を震わせる。
レイの指先が円を描くようにくるくると、俺の腿に触れていた。
「おねがい」
レイは指先を動かしたまま、上目に俺のことを見つめてくる。
酒をねだるための行為だと分かっていながらもそれはとても色っぽくて、思わず小さく喉を鳴らす。
「……そんな誘い方、どこで覚えてきた?」
俺は動揺を悟られないよう険しい表情を作りながら、レイの手首を掴んで腿から離させる。
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