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再来
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俺はひどい喉の渇きで目を覚ました。
あれ、いつ寝たっけ……?
自らベッドに入った記憶はないものの、俺はベッドで寝ていた。多分キオンがベッドまで運んでくれたのだろうが……、ともかく喉が渇いた。
隣で眠るキオンのことをチラッと見たあと、キオンの身体にかかっている布団がずれないよう気を遣いながら、慎重に身体を起こす。
野生の本能なのかどうなのか分からないが、キオンの眠りは浅い。俺が目を覚ますと必ずと言っていいほどキオンも起きてしまうからだ。
恐る恐るキオンの顔を覗き込んでみて、規則正しい寝息を立てて眠っているのを確認して胸をなで下ろす。
よしよし、今回は起きないな……。
そうと思って油断をした矢先、突如としてキオンの目がカッと開いた。
「レ〜〜イ〜〜」
「ひっ」
心臓が飛び出るかと思った。
以前のように布団の中へと引きずり込まれそうになって、咄嗟にマットレスを掴んでなんとか耐えると、諦めたキオンが俺の腰に腕を回してくっついてくる。
キオンは恨めしそうに俺のことを睨み上げてきた。
「勝手にどこに行く人間め……」
「べ、別に」
見るからにキオンは寝ぼけている様子だ。そんな相手に説明したところで分からないだろうと適当にあしらおうとしたが、キオンは首を振った。
「だめだ、人間。今からお前はオムライスだ」
なんの話だ。
困惑している俺を差し置いて「だからお前はここにいなければいけない」「スプーンはどこだ」など、なにやらブツブツ呟いている。恐らく夢と現実がごちゃごちゃになっているのだろうが、どんな夢を見ていたんだそれは。
「あー……分かった分かった。ちょっと卵取りに行くだけだから離せ」
寝ぼけているキオンは新鮮だったが……、喉が渇いたことに変わりはない。
適当に合わせて、キオンのことを宥めようと頭を撫でてやる。キオンが俺にやるみたいに、ゆっくりと。
あ……、俺は目を瞬いた。
結構ふわふわしてんだな、キオンの髪って。
そういえば、キオンのこの長い髪にちゃんと触れたのは初めてかもしれない。キオンが首とかに擦り寄ってきたときはいつもくすぐったいなとは思っていたが、ここまで触り心地がいいとは。
何気なく触れただけだったはずなのに、その柔らかさに惹かれて必要以上に頭を撫でる。
「やめろ人間……俺は、オムライスをだな……」
「はいはい」
やめろと言う割に、手を振り払おうとしないどころか気持ち良さそうに目を細めている。
……なんだろう。狼というより犬だな、これは。
腰にしがみついているキオンのことを見下ろしてそう思った。
寂しがり屋の犬が飼い主にくっついているみたいで、そう思うとちょっと可愛い。ちょっとだけだ。
そのとき、キオンの肩がビクッと跳ねた。
もしや本当に嫌だったのだろうかと思わず手を止めて様子を伺うと、キオンは小さく唸り声を上げている。
「ど……どうした?」
顔を顰めて、心なしか苦しそうだ。
キオンは俺の腰に回した腕により力を込めて、俺の腿に額を押し付けた。
「レイ」
静かな声で名前を呼ばれ、身体が震えた。
もしかして目を覚ましたのだろうか。
「な、なに?」
「……お前はオムライスだ」
あ、まだ夢の中だわ。
さーっと心配していた気持ちが冷めていき、俺はため息をついた。
強引にベッドから抜け出し、そろりと振り返る。キオンはベッドに突っ伏して起き上がる様子はなく、やはりさっきも寝ぼけていただけなんだと確証した。
そのまま部屋を出て行こうとドアノブに手をかけたその瞬間、キオンがまた俺の名前を呼んだ。
構わずに行こうとしたが、今回は名前だけではなかった。
「勝手に……どこかへ行かないでくれ、レイ……」
ハッとして振り返る。
が、キオンはさっき見たときと同じ格好で寝ていた。
「寝言……?」
少し待って見ても、キオンが動く様子はない、やっぱり寝言のようだ。
ただの寝言……のはずなのに、そのキオンの言葉が胸に刺さった。
「少し、水を飲むだけだから……」
寝ていると分かっていても、俺は言わずにはいられなかった。
早く戻ってこようと、足早に部屋を出る。
途中、リビングのテーブルの上に、ワインのボトルが転がっているのに気付いた。それも3本も。使った食器も洗わずそのまま置かれていた。
几帳面で綺麗好きなキオンにしては珍しい光景だったが、かなり飲んだらしいと空になったボトルを見れば合点がいく。だからいつもなら起きるのに、今日は起きなかったのか。いや、起きれないのか。
それにしても……ボトルを眺めながら首を傾ける。
俺は昨日のことを思い出せないでいた。
ワインを一杯か、二杯くらいまで飲んだ記憶はある。そしたら気分が良くなった。……が、そのあとのことを覚えていない。気付けばベッドで寝ていたわけだ。
そういえば、前にも似たようなことがあった。それは20歳の誕生日にラルスがお祝いしてくれたときだ。
俺は調子に乗ってラルスの持ってきた酒をガブ飲みしたら、次の日目が覚めるとなぜか玄関で寝ていた。
俺はよく覚えていなくてラルスに聞くと、ラルスは半べそをかきながら「レイは絶対に外で酒を飲むなよ」と言った。
まあ、なんだ……あまり、お酒は強い方ではないらしい。記憶がなくなるくらいには。
外に出た途端、冷たい外気が俺の身体を包み込む。
「ん……さむ」
正確な時間は分からないが空が白み始めているところを見ると、朝が近いらしい。少しくらいだったら二度寝出来るかもしれない。
小屋の裏へと回り、井戸に向かう。
俺は桶を井戸の中へと放り投げ、水が入って重くなったそれを引き上げた。
桶の水を両手で掬い、口に運ぶ。一度だけでは渇いた喉には物足りなく、数回繰り返して喉を潤した。なんだか家で飲む井戸水よりも、ここの井戸水の方が美味しく感じるのは気のせいだろうか。
濡れた唇を拭っていると、桶の中に残っている水に自分の顔が映り込んでいるのに気付く。
……首のとこ、まだ残ってるのかな。
おもむろに自分の首を撫で、それからフンと鼻を鳴らした。
キスマークとは魔除けというより、マーキングのような気がする。俺の所有物だと言っているような……なんて。特にキオンなら言いかねないが、まあ……それはそれで、悪い気はしねえが……。
そこで自分の頰が緩んでいるのに気付き、慌てて首を振った。
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