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再来
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なぜラルスがここに?
疑問に思うよりも、ここにいることに納得すらしてしまった。たった二人で来るわけがなかったのだ。
見れば、小屋の正面からも火矢によっての攻撃されており、火は大きくなり始めていた。たった一本では燃え尽きてしまうかもしれない火矢も、十数本ともなればひとたまりもない。
正面にも弓と銃をそれぞれ持った猟師らが待機していたのだ。
間抜けな俺はその自体を予測もせず、自ら敵の中に飛び込んできたようなものだ。ラルスに続き、あっという間に後ろと横にも猟師に囲まれて、容赦なく銃口を向けられる。
「レイ、そこに膝をつけ」
いつもニコニコしてて、でっけえ声で笑う、ラルス。
そのラルスが今、冷たい表情と冷たい声で、俺の前にいた。
そんな顔にさせているのは間違いなく俺だ。
そのくせに、銃を向けられたことなんかよりも、目の前のラルスが俺の知っているラルスではないことが恐ろしくて堪らなかった。
「……頼む。もう俺たちのことは放っておいてくれ」
ラルスのことを真っ直ぐ見ながら掠れた声で呟いた。
「今ならまだ間に合う。森から出て行ってくれ」
「っなにを今更!化け物を庇うというのならば、お前も殺すぞッ!!」
横で銃を構えていた男が吠えた。
その瞬間にカッと頭に血がのぼり、頭で考えるよりも早く男の股間を思いっきり蹴っ飛ばしていた。
男が声にならない叫び声をあげながら、俺の代わりに膝をつく。
更に追い討ちをかけようと右足をあげたところで、左の太腿に衝撃を受けた。
鋭い痛みが全身を駆け抜け、気付けば俺は膝をついていた。
見れば太腿のズボンに穴が開き、そこからじわじわと血が滲み出していた。それを見て撃たれたのだと実感させられた瞬間、頭を殴られたような衝撃を受けたがそれは『撃たれた』ことによるわけではない。
俺を、撃ったのは。
横目で見ると、ラルスの銃から一筋の煙が出ていた。
……ラルスが俺を撃った?
俺はラルスのことを見くびっていた。ラルスに銃を向けられたことに、ちっとも恐怖心なんてなかった。それはどこかで『ラルスが撃つわけがない』と高を括っていたからだ。
「ラルス……、」
「レイ」
ラルスは俺に銃を向けたまま、ゆっくりと首を振る。
「もう、動くな。頼むから……」
今にも消えそうな声を聞いて、俺は目を見開いた。
俺なんかよりも、俺を撃ったラルスの方が悲痛な表情をうかべていた。
「抑えろ!」と誰かが叫ぶとほぼ同時に後ろから頭を掴まれ、地面に顔を押し付けられる。その拍子で勢いよく鼻をぶつけて、ツンとした痛みを感じた。
続けて背中と撃たれた腿を容赦なく踏みつけられ、鋭い痛みに声が漏れそうになったのを奥歯を噛み締めて我慢する。
……くそったれ。
このままでは、キオンは殺される。最悪の考えが頭をよぎった瞬間に、俺は叫んでいた。
「早く逃げろクソ野郎ッッ!!」
もう火は小屋全体を飲み込んでいた。窓ガラスは全て割れ、カーテンは燃え落ち、風に乗って炎の熱さが伝わってくる。
狼は耳がいいはずだ、鼻がいいはずだ。
それなのに、キオンが出てくる気配は一向にない。
まさか外に人がいるから小屋の中から様子を伺っているのではないかとすら思ったが、焼け死ぬ恐れがあるのに今もなお出てこないのはおかしい。
「キオン……っ」
「舐められたな、ラルス」
突如聞こえてきた冷たい声に、背筋がゾッとした。
こめかみに押し付けられる銃口の冷たさに、更に身体は凍り付いたように動かなくなった。
その銃身を辿ってゆっくり視線を上げていく。そしてそれと目が合う。
父さん。
上半身をマントで覆い、そのマントの端から伸びた猟銃を俺に向けながらも、相変わらずその顔に表情は見られない。
父さんは小さく息を吐いたあと、チラリとラルスの方を見遣った。
「お前は撃たないと思われている。日頃甘やかしていたせいだ」
ラルスはくしゃりと表情を歪めて黙り込んだ。それもまたつまらなそうに鼻を鳴らすと、父さんは再び俺のことを見下ろした。
「……さて、レイ。お前が肩入れをしている狼の小屋を燃やし、他の猟師らを数人ずつ小屋の四方八方に配置した。奴にはこのまま焼け死ぬか、出てきたところを撃ち殺されるかの二択しかないが……」
父さんの目が細められた。
「選べ。お前もここで撃ち殺されるか、それとも許しを請うて死ぬのを免れるか」
……?
少しの違和感。
これの正体はなんだろうと考えたのも束の間、俺はすぐに悟って口角をつり上げた。
「……父さんが俺のことを、許すだって?」
冷酷な父さんとは思えない選択肢。今ここで容赦なく撃ち殺されることだって十分あり得るのに、俺にこの後のことを選べだと?
「父さんらしくねえ。実の息子でもねえ俺のことなんて殺すの簡単だろ」
父さんはなおも表情を変えなかった。そして否定もしなかった。
その顔を見て、俺は確証する。
「やっぱり父さんは俺が父さんの子じゃないって知ってたな?」
「……だからなんだ。関係のない話をして話を逸らそうとするな」
「逸らそうとなんかしてない。提示された選択肢に疑問を持っているだけだ」
気丈に振る舞いながらも、俺は気が気ではなかった。ラルスと違って父さんならば返事を待たずとして俺を撃つ可能性があったからだ。
それでも俺は口を動かさなければいけなかった。
「なぜ、父さんは実の子ではない俺を母さんがいなくなってからも育て続けた?そしてこれは俺の推測に過ぎないが……、もしかして父さんは、母さんが死んでるって知っていたんじゃねえのか?そして、父さんが母さんの死に関係してる……とか」
「なにを言いたいのか分からんな」
父さんは鼻を鳴らした。
やっぱり父さんにはなにを言っても無駄のようだ。だから俺は、父さんの背後の人物を睨み付ける。
「おい、てめえにも聞いてんだぞ」
父さんとは対照的に、そいつの肩はビクッと震えた。
父さんが俺の視線を追って、ゆっくりと振り返る。そしてその人物を睨み付けた。その途端にバツが悪そうに俺からも父さんからも顔を逸らしたそいつに、俺は拳で地面を叩く。
「目を逸らすな……ッラルス!」
やっぱりこいつらはなにかを隠してやがる……!
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