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再来
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「違うッ!」
ラルスはかぶりを振る。
「レイ……!クシェルが……、あんなにヴァネッサを愛していたクシェルが、」
そして最後に「俺のせいなんだ……」と首を振りながら呟いたきり、ラルスは膝から崩れ落ちた。
「お前はもう黙ってろ」
父さんがため息を一つついた。
その父さんの顔を見て、俺の身体はビクッと震えてしまった。
今まで動揺一つ見せなかった父さんの目が、小屋を燃やす炎を反射させて光っている。その人でも殺せそうな眼光で、俺のことを見下ろしていた。
「お前のその目つき、本当にヴァネッサそっくりだ」
「……否定、しないのか」
父さんは「馬鹿馬鹿しい」と鼻で笑った。
「どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ。なにが愛だ。どの口がその愛とやらを語っているというのだ。血の繋がりがないとはいえど自分の妹に手を出して、孕ませた。本当に馬鹿な奴らだ」
一切の否定しないどころか、その素振りさえも見せなかった。
俺は父さんの顔を見つめる。
父さんは、俺の本当の父さんではないが、これは親不孝かもしれないと思った。
俺はラルスよりも、父さんが殺したという方がしっくりきてしまっていた。
皮肉かな、親不孝と思うと同時に、本当の親でないからこそ、そう思うかもしれない。矛盾だ。
だが、どうしようもなく、父さんには動機がある。
「やっぱり父さんは、全て知っていたんだな」
母さんがラルスと不倫していて、そのことによって生まれたのが俺だと。そしておそらくそれを知ったのは母さんが帰ってこなくなった、5年前。
「あの夜、母さんを殺したんだな……っ?」
自然と呼吸が荒くなる。
だが、もしそうならば、一つ疑問がある。
父さんは俺に銃を向けたままピクリとも動かなかったが、その目にはどうしようもない殺意があった。
「……レイ」と、父さんが俺の名前を静かに呼んだ。
「この5年間、いくらでもチャンスがあった。やはりお前も殺しておけば、こんな事態にはならなかっただろうな」
息を飲んだ。
一瞬だけ、ほんの僅かな時だけ、その目が悲しげに色付いたのが見えた。
「もう、選択を選ばせる余地はない」
瞬きをしているうちに、父さんの顔は無表情に戻っていた。
撃たれる、と直感で理解したとき、それは起きた。
タキサイキア現象。
俺の脳は誤作動を起こした。
ラルスが慌てて立ち上がり、俺の元へと駆け寄ってこようとする。
小屋から押し寄せてきた熱風が、俺の頬を炙る。
燃えて千切れたカーテンが吹き飛ばされ、父さん越しに宙に舞ったのが見える。
そして父さんが、俺に向けている銃の引き金を引こうとする。
それらのことが、まるでコマ送りのようにスローモーションで見えた。だがいくらスローモーションで見えるといっても特別なにか出来ることはなく、ただ恐怖した。
ラルスが父さんを止める前に、俺は頭を撃ち抜かれて死ぬのだ。
「なぜ」と呟いたつもりだったが、俺の耳には届かなかった。
なぜ、俺が死ぬのは今なのか。
母さんと同じ5年前のあの日でも、よかったのではないか。
なぜ、父さんは俺が本当の子ではないと知っていながらも俺を育て続けていたのか。これが疑問だった。
だが、この疑問を父さんに投げかけることはもう出来ない。
途端に、小屋が燃える音が大きく聞こえてきた。
どうやら魔法の時間は終わったようだと察して、俺は目を閉じる。
そして、銃声が鳴り響いた。
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