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墓までもっていく話
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ほどなくして、無事に子供が生まれた。
二人は女の子でも男の子でもいいと言っていて、結果生まれたのは男の子だった。
生まれた子供はどこかクシェルに似ていた。それも神様からの「ちゃんと現実を見ろ」というお告げだったのかもしれないと思った俺は、本当に性格が歪んでいるのかもしれない。
二人は生まれる前からずっと考えていた名前を赤ちゃんにつけた。
クシェルとヴァネッサの子供。
名前を、ルカ。ルカ・ギーツェン。
それから四年後に生まれるレイ・ギーツェンの兄である。
ルカはあまり泣かない子供だった。大人しくて手がかからず、逆に心配になってしまうほどの子供。クシェルの幼い頃もこんな感じだったのかなと思った。
自分に似た息子が可愛くて可愛くて仕方なかったであろうクシェルは、ルカのことを溺愛した。余計に服やおもちゃを買ってきたり、構い過ぎたりして、しょっちゅうヴァネッサに怒られていた。
そんなクシェルの父親らしい姿を微笑ましく思えない自分が憎たらしくて仕方なかった。そのこともあってか、俺はあまりクシェルとヴァネッサの家に行かないようにした。
家族の時間を作ってほしいから、を建前に、本当は幸せそうなこの家族を見ているのが辛かったからだ。
その代わりに仕事に没頭した。そのうちにクシェルへの気持ちも忘れていくかもしれない。いや、忘れてほしいと願った。
なのに。
ある日の夜。職場から自宅に戻ったとき、玄関の前にクシェルの姿を見た瞬間、心臓が止まった。
こっちの気なんて知らないクシェルは俺の顔を見て少しほっとした様子で「おかえり」と言った。その瞬間に、抑えていた彼に対する気持ちが溢れてきて、ポケットに隠した両手を強く握り、なんとか「ただいま」と返事をした。
クシェルと会うのは約2ヶ月ぶりくらいだったが、昔は毎日顔を合わせていたということもあって、会っていない期間はもっと長い気がした。
遊びに来た……という割には、クシェルは深刻そうな表情をしていた。
「ルカが生まれてから、ヴァネッサがおかしい」
クシェルの口からその名前が出た途端、「やっぱり彼女のことか」と口から出そうになり、俺は必死にその言葉を飲み込んだ。
俺に会いたくてわざわざ夜に来たわけではない。
だが、クシェルと会話をしていくにつれ、俺ならばどうにかしてくれるかもしれない……そう思って相談してきたのだと分かった。不謹慎だと分かっていながらも、クシェルに頼られたのが嬉しかった。
そしてヴァネッサに会うと約束をして、早速翌日に仕事を休んでまでクシェルたちの家へ行った。
ヴァネッサの様子がおかしいというのは、恐らくクシェルに言われなくても分かっただろう。そのくらい以前のヴァネッサとは違っていた。
表情に明るさはなく、あんなにツヤツヤしていた髪に輝きがない。肌ツヤもよくないようだった。
そしてなにより後ろ向きなことばかりを言うようになった。
「私がこの子の母親なんて務まるわけがない」
「ごめんなさい、クシェル」
もしかして産後鬱というやつなのだろうか。
俺はヴァネッサの背中を摩ってやり、そして子供は親に預けて、たまに二人で出かけようと持ちかけた。
するとヴァネッサは思った以上に嬉しそうにして、先ほどまで暗かった表情は一気に明るくなった。
そしてルカを母さんに預けたあと、二人で出かけた。ただレストランで食事して少し買い物をしただけだったが、ヴァネッサはそれはもう楽しくて仕方ないといったようだった。
やっぱり息抜きをしたかったのだろう。ヴァネッサはまだ16歳だ……、そう思った。
俺は彼女が立ち止まった花屋で、花の匂いを嗅ぎながらヴァネッサの横顔を盗み見する。
今も昔も、俺はヴァネッサが憎いわけではない。むしろヴァネッサのことを愛している。複雑な幼少期を送ってきたヴァネッサには幸せになってもらいたいし、クシェルならヴァネッサを幸せに出来るだろう。
……だけど、俺はきっとヴァネッサよりも、
彼女が俺の目線に気付いてこちらを見たため、慌てて視線を逸らした。
太陽が沈み、一番星が輝きだす時間。
ヴァネッサを実家まで送る道中ヴァネッサは一言も言葉を発さず、表情は暗いものに戻っていた。
「……ヴァネッサ、なにかあったのか?クシェルも心配していたぞ」
実家が見えてきたところで一度足を止め、ヴァネッサの顔を覗き込む。
ヴァネッサはハッとした様子で目を見開いたあと「なんでもないわ」と首を振った。
「慣れないことばかりで……きっと疲れているの」
「そうか……」
しかし、俺にはヴァネッサがなにかを隠しているように見えた。血の繋がりこそないものの、家族だから分かる。
「今日一日ありがとう」と言うなり、俺の横を通り過ぎていく。俺は咄嗟に彼女の腕を掴んだ。
ヴァネッサも驚いていたが、彼女を引き止めた俺自身も自分の素早い反応に驚いていた。
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