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【番外編】金と黒 21
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「んじゃ、行ってくるから。テキトーにくつろいでて」
祐馬はコンビニにも寄ってくれていて、朝ごはんを一緒に食べた。
菓子パンとプリンに野菜ジュース。普段食べないから雑でごめんね、と言われたが、明にとってその朝ごはんは格別なものとなった。食べながら何度鼻がツンとなったことやら。昨日のせいで、一気に涙腺が弱くなった気がする。
こういうの、ちゃんと受け入れることが出来たら幸せなのだろう。仕事に行く祐馬を玄関まで見送っていると、明はふとした瞬間にふっと笑った。
「……祐馬を好きになれたら、違ったのにね」
健人のことで苦しむことはなかったし、凛にも手をあげなかったと思う。こんな毎日なら明るく過ごせるのに。
「ほんとだよ、好きになりなよ。健人より絶対良い男でしょ」
「それは間違いないね」
明は即答して、くすくすと笑った。そして、すぐに笑いは去っていく。明の中で思い出すのは健人だ。祐馬といる毎日は確かに明るいものだけれど、明にとって眩しすぎる。
「でもさ、だから俺に祐馬はもったいないんだよね。あいつくらいのほうが、ちょうどいいんだよ」
「待って、出勤前に振られんの? 悲しみで仕事休みたいわ……」
「あっ、ごめん。そうだよね、頑張って。いってらっしゃい」
再び笑顔を取り戻そうとすると、その前に祐馬の顔が近づき、あっと思った瞬間には唇を奪われていた。
ちゅ、と軽く触れて離れていく唇。祐馬は「これでおあいこ」と笑う。
明はその眩しい笑顔を見て、困ったように笑った。
「ありがとう、祐馬。今までごめんね……」
「……え、なになに。変なことを考えるのはやめてよ、明」
「考えてない。早く行かないと遅れるよ」
心配の表情を見せつつ、祐馬は家を出て行った。
ぽつんと残ったのは、明ただ一人。またたく間に明へ虚無感が襲ってくる。寂しい。しかし、祐馬にはこれ以上頼れないと思っていた。
明は部屋に戻っていき、服を着替えると、出来る限りの片付けをした。ベッドを綺麗にして、服もたたんで。洗濯代と朝食代分以上の現金をテーブルの上に置いて、祐馬の部屋を出る。鍵は郵便受けに入れておいた。
これで、祐馬とも終わり。
明は振り向くことはなく、一人で歩きだした。
夜になると、急激に寂しくなる。
家に一人でいると、それが襲ってきて眠れなかったので、なるべく夜勤を増やしてもらうことにした。だが、元々日勤での契約だったので、日勤との比が逆転することはなく、気づけば夜はあちこちのバーへ出向くことが多くなった。
「ねえ、一人? 隣、いいかな?」
「どうぞ」
「君、美人さんだね」
「ありがとう」
そこで、この顔には感謝をした。明が一人で飲んでいれば、だいたいは話しかけられる。そして、酒で盛り上がった先に──。
「ああ、もうこんな時間か……そろそろ出ようかな。今日はありがとう。楽しかったよ」
「こちらこそ。これからどうするの? 出来たら……俺、一人で寂しいから慰めて欲しいな……」
カウンターやテーブルで下半身が隠れているのをいいことに、明は男の太腿を撫で、股間を軽く揉んで。その時に膨らんで硬くなる人だっていた。バーのトイレに連れ込まれて、隠れてセックスした時だってある。でも、たいていは「しょうがないな……」と男が微笑み、ホテル街へ一緒に向かうのだった。
こうして、バーへ行く日は必ず男を釣った。その日だけ、お互いに干渉はしない。だから、色んなプレイをさせられた。辱められたことなんて数知れない。だが、どんなに痛くても、苦しくても、一人でいるよりかは安心感を得られた。人の肌が心地良くて、やめることも出来なかった。
ラブホテルや、時々、男の家に泊まってセックスをする日々。いつの間にか、自宅には着替えをしに行くくらいしか用事がなくなってしまっていた。
「お先です。お疲れ様でした」
今日もいつものように日勤が終わり、着替えに戻ってバーへ行く予定だ。携帯を見ると、メールマガジンが何通か届いていて。それ以外は特になにもない。その理由は、明が仲間の連絡先を着信拒否しているからであった。健人も祐馬もみんな拒否している。
メールの内容を確認せず、開封状態にして携帯をカバンへしまった。従業員専用口を出て、道路に出てくると、ホテルの入り口付近に目立つ人物がいて明は思わず足を止める。
この金髪は久しぶりに目にするかもしれない。
「……よう、明」
そこにいたのは健人だった。
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