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【番外編2】裸足のシンデレラ 2
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道彦との行為が終わったあとは、盛り上がっていた空気が消え、驚くほど静かだった。ただただ虚しい満足感を得られるのはセックス中だけ。魔法が解けて、現実に戻る時間だ。そもそも、これが魔法と言っていいものなのか怪しいところだけど。
凛の脚がおぼつかないせいで道彦と一緒にシャワーを浴びて、ベッドで休憩をしていると、後ろから道彦に抱き締められる。
道彦の行動に凛は驚いた。セックスが終われば道彦は、じゃあ帰るからと素っ気なく妻のいる自宅へ帰る。こういう余韻なんて味わう暇も作らないくらい、あっさりしていたはずなのに。しかも、手に持っていた携帯の画面を見れば、時刻はいつもの別れの時間を過ぎていた。
「道彦さん? 今日は家に帰らなくていいんですか? 奥さんに気づかれたりしたら……」
「今日は嫁が友達と旅行に行ってるからいいんだよ」
「そうですか……」
道彦が妻と上手くいっていないことは知っている。その旅行って……と、一瞬だけ疑惑が凛の頭の中をよぎったが、深く聞かないことにした。
「俺はもう少ししたら帰りますね」
「えっ、帰るの? 今日はゆっくり出来るって言ってるのに? 凛ちゃん、冷たいな……冗談だよね?」
「道彦さん……」
凛が早く帰ろうと思っている時に限って、妙に優しい。凛には、すでに出会った時のようなときめきや、ふわふわと酔いしれた感情はなく、道彦との間に温度差があることを感じた。
「帰さない。一緒にいよう?」
これが本当の王子様だったら、嬉しい言葉なのに。
なんて頭の隅で考えていると、唇に温かい感触が当たって。気がつけば、近づいていた道彦の瞳と視線が合わさった。
先程から驚くことばかりで、凛の目が見開かれる。道彦とキスをした。確か、キスは道彦からしないと約束を交わしたはずだ。
「……い、今、キス……」
「したよ」
あっさりと開き直る道彦に戸惑いを隠せない。そして、再び塞がれる唇。無理やり舌が割り入ってくる感覚に悪寒が走った。この悪寒こそ、だらだらと続けてきた関係を完全に断ち切らなければと、ようやく思った瞬間だった。
「待って……」
凛は道彦の胸を押して、くっつけていた身体を剥がした。しかし、混乱をしていて、そこから出す言葉がない。
すると、凛が話す前に道彦が意を決したように口を開く。
「凛ちゃん聞いて? 俺、嫁と別れようと思ってるんだ」
「え……」
「まだ嫁とは話してないけど……決めた。凛ちゃん、不安に思ってるんでしょ? 俺が離婚すれば、凛ちゃんと堂々と付き合えるよね」
「え、待ってください。違っ……」
待って、待って。
凛の中で理解が出来ないまま話が進んでいき、ますます混乱する。今のところ、話が進むにつれて背中が凍りついているのは確実だ。都合の良いようにしてもいいけど、付き合わない。キスはしない。次々と二人で合意した約束が簡単に破られていく。
急になんなんだ、この男は。と思ったが、これが関係を続けてしまった代償だ。
「いつでも好きな時に会えるよ。一緒に住んだっていい」
「駄目! なにを言ってるんですか? 付き合わないっていう約束でしたよね……?」
「でも、俺は凛ちゃんのことが好きなんだよ……嫁だって、きっと今日は……」
「好きって……ヤってる最中に奥さんの名前を呼ぶのに……? けど……俺も既婚者だと知っておきながら、道彦さんに頼ってしまっていたことは謝ります。もうこれ以上は……終わりに……」
「どうして? どうして喜んでくれないの? 終わりってなに? 凛ちゃんも俺のこと好きだよね?」
問いに問いを重ねて、道彦は凛に迫ってくる。据わった瞳が凛を捉えていた。
好きだよね、そうだよね。絶対そうに決まっている。すべてを決めつけてくる態度は、身体が震え上がるほどおぞましい。凛は後退りながらも、首を横に振った。
「どうして? 凛ちゃん……凛ちゃん……」
「道彦さん、ごめんなさい……許して……」
ごめんなさい。これまでに何度言ったかわからない。もうこの言葉を積み重ねていくことしか出来ないのだろうか。
道彦の影が凛に覆いかぶさり、捕まえようと手が伸びてきた時、凛は本能的に逃げ出していた。
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