アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
10‐6
-
「えっとつまり……新名と岡村くんは付き合っているってことでいいの」
「はい……」
まだ言うつもりじゃなかったのに。
反応が怖い。
井上がどんな反応をするのか分からない。
同性で付き合うことや同性が好きであること。
人によってはそれは『気持ち悪い』と思ってしまうようなものだ。それは恐らく人間の生殖本能とはかけ離れているからだろう。
中には自分が信じている相手にカミングアウトしたら、その相手がそれを誰かに話し、カミングアウトをした人物は苦しむパターンもある。
だからこそ、すぐには言えなかった。
きっかけ自体ももちろん含まれるが、一番は怖かった。
岡村を信じていないのか、と非難されるかもしれないがそれでも井上から拒絶されることは恐ろしい。
だからこそ翔があのとき自分がゲイであることを言おうとしたとき緊張していたのだ。
岡村はオレの様子を見て理解できない、と言わんばかりだ。
「そっか。付き合ってる人って岡村くんだったんだね」
オレは何も言えない。
井上は少し考えている。ゆっくりとどういうべきか頭の中を探っているのだ。
ただその表情はオレが想定していた最悪のものとは違うようにみえた。
「岡村くん」
「はい」
「新名って自己中だよ」
急に何を言い出すのかと思えば悪口だった。
本人の目の前で。だが事実なので言い返せない。
「それに短気だし」
「知ってます」
岡村まで肯定するなよ!
「でも正義感強くて、信じてる人は裏切らない人だよ」
「……」
「だからね、岡村くん」
井上は一礼した。
岡村は澄んだ目でじっと井上だけを見ている。オレはその光景から目が離せない。
「新名のことよろしくね」
「井上……」
まさかそんな風に言ってくれるとは思っていなかった。
やっぱり、井上は友達だ。こんな風に思ってくれるやつなんて他にいないと思う。
岡村ははい、とだけ言ってオレを見る。
のんきによかったですね、と言いたげな雰囲気だ。
「オレ、怖かった。男相手だし気持ち悪いとか言われるの怖くて」
「言わないよ。新名が決めたことじゃない」
「そうだな」
ちょっとだけ荷がおりたところで母さんが一階から叫ぶ。
そろそろ帰らないと暗くなると。
その言葉を聞いてオレ達は部屋を出た。
オレは玄関で岡村と井上を送る。
普段はこんなことしないけど今日はしたい気分なのだから仕方あるまい。
「じゃあ明日な」
「うん。新名じゃあね」
岡村は黙って大きく手を振る。
5回くらい振ったあとさっと歩く方向を向いて井上を無視してさーっと歩いていく。
おいおい、と思っていたら井上がおいついて話しかけている。若干だが声が聞こえる。
すると歩みを井上に合わせていた。
そういえば。
オレを置いていったとき、オレが岡村に話しかけることはなかった。
サッサと行ってしまったからこの野郎と思うかまあ話さなくていいならラッキー、くらいにしか思っていなかった。
岡村は話しかければちゃんと歩幅を合わせるんだな。
本来はそれがなくても一緒に歩いているなら歩幅を合わせるべきなのだが、もしかしたら一緒に歩いている意識自体が岡村にないのかもしれない。
それに気がつけただけでも進歩かも。
オレはしばらく見届けたあとドアをきつくしめた。
二階に上がりベッドに横たわる。
「なんか疲れた……」
このあとまだご飯や宿題もあるのにオレは眠りについてしまった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
48 / 58