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当日、学校近くの駅に集合する。なんとなくどこに行くか予想ができていたけれど、予想通り映画館に連れていってくれた。
見るのは割と有名な監督が作ったもの、らしい。らしいというのは俺にはよく分からない世界だからだ。ただキラキラした目で語る翔くんが微笑ましい。
やっぱり「好き」って感情はいいものなはずなんだよね。
俺の場合、どうしても隠したい事情というものがあるんだけど。
実は裁縫が趣味なのは翔くんにはいっていないのだ。新名は知っている。
そもそも新名と仲良くなったのは裁縫が得意なのを女子っぽいと馬鹿にされていたのを、そんなことはないと言ってくれたことがきっかけだし。もちろん今コスプレ衣装を作っていることは教えてないし、知らないはずだ。知ってたらどうしよう。
「井上さん楽しみですね!」
「うん」
あ、考え事してた。まずいな。
今目の前に翔くんがいるんだから楽しまないと損だよね。
映画館ではおなじみのポップコーンを購入し、薄暗い館内に入っていった。
映画はまあまあ面白かった。題材はベタな恋愛もの。原作となったものはないらしい。
不器用な二人がどうやってくっつくのかを2時間という短い時間で丁寧に描いていたし、主人公ふくむ登場人物も性格がはっきりとしていて見やすかった。滅多に恋愛ものはみないけど、そういう人にも割と見やすいものだと思う。
隣にいる翔くんはパンフレットとグッズが入った袋を持って満足げだ。
「よかったですね!」
「うん、こういう映画はあまりみないけど楽しかったよ」
「ですよね!カメラのアングルとか、細かい仕草とかまでこだわっていて……!」
本当はもっと色々あるんだろう。でもそれ以上語らなかったのは恐らく何時間でも話せるだろうから。前に新名に聞いたら3時間は語り続けたらしい。それに怒って、反省した翔くんはSNSでつぶやき始めたって聞いたな。
「翔くん、次はどうする?」
「そうですね……カラオケ行きましょう」
カラオケかぁ。俺超がつくほどの音痴なんだよね。
中学時代の友達と卒業式のあと歌いに行ったけど俺だけ歌うのを免除された。それは合唱コンクールの練習のときあまりに音痴で、特例で口パクを許されたことがあったからだ。
でも翔くんが行きたがってるなら行くべきかな。
「あの……」
「どうかした?」
「もしかして、カラオケダメですか?」
何でそんなこと聞くんだろう。
「どうして?」
「だって、いやそうな顔してたから。もし嫌なら言って欲しいです。嫌なのに無理に行ったら楽しめないでしょ……?」
そうだよね。
無理やり行きたくないところに行っても、俺も翔くんもいいことないし。
正直に言おう。
「俺音痴でさ。歌うのも好きじゃないんだ。ごめん」
「いえ、いいんです!」
ぴしっと姿勢を正す翔くん。そういうところも全部好きだなあ。
「その代わりにさ、俺の家に来る?今家族いないんだ」
「い、いいんですか!やったあ!」
俺の家に行くの、そんなに嬉しいのかな。ならよかったな。
実は連れていくだけ連れていきたいと思っていて、今日の目標にしていた。
恋人に離れなくても近くにはいたい。それくらいは、いいよね。
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