アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
2years ago go go
-
その日のことはよく覚えている。
久しぶりに旧友から連絡があったのは、雨がうっとおしく降っている秋の日のことだ。
ファミレスに呼び出されて、指定された時間に早めに向かったというのに、旧友はもうすでにそこに座ってコーヒーを飲んでいた。
その隣には。
その隣には、柔らかそうな金髪頭のほっそい子供が小さくなって座っていた。
入口に顔を向けて座る形だったので、彼の顔は今でもよく覚えている。
行儀が良いとは違う、無表情で落ち着いた様子がなんだか子供らしくなくて、俺は思わず彼の姿に見入ってしまう。
「いらっしゃいませ、一名様ですか?」
ぼぅっとしている俺に、店員のおねぇちゃんが近づいてきて我にかえる。
「いや、先にツレが…理代ちゃん!」
俺は旧友達のいるテーブルに大股で近づくと、待たせたなと笑いかける。
しかしそんな俺とは反対に、旧友は憎悪と言っていいくらいに顔をしかめて俺を睨みつけた。
隣の彼は、というと俺の姿に驚愕したのかその無表情が崩れていた。
*
「この子がこう太。アンタの子供よ」
―――コーヒーを口に含んでなくて良かった
旧友の言葉を聞いた時の最初の感想だ。
そして、旧友の言葉を聞いた瞬間様々なことがフラッシュバックし始める。
無言で固まっているように見えたのだろう、旧友は眉間に思いっきりシワを寄せると吐き捨てるように言った。
「忘れてたんでしょ?本っ当に最悪なのは変わんないのね」
「え、あぁ、はい…」
「マジで最悪…何なのアンタ?アタシが言わなかったら一生引き取らない気だったでしょ?」
「そんなことは…」
旧友は俺の姿を見てイライラと長い髪の毛先を手でグシャグシャと弄る。
若い頃からの癖が変わってないのを見て、お前も変わってなくて何よりだと言おうかと思ってやめた。
熱いコーヒーをかけられかねん。
「とにかく。最近羽振りがいいみたいなんだし、そろそろ引き取ってよね。感謝しなさいよ、アンタが売れるまで面倒みてやってたんだから」
「それは本当に…イタミイリマス」
「うちだってね!来年中学受験の子もいるし、一番下の子はまだ小学校前でお金がかかるんだから!それに、最近旦那が単身赴任で戻ってきたと思ったら向こうの親勝手に連れてくるしで、ただでさえ狭い家が狭くなって大変なんだからね!わかる!?そんな中、自分の子供だって手一杯なのに、他人の子を育てる余裕なんてないのよ!ましてや、アンタの子供なんて!!」
「はい、はい…」
「死んだ親友の為だと健気に頑張ってたけど、アタシはもう限界!自分の子なんだからしっかり育てなさいよね!」
そう叫ぶとバックを引っつかんで立ち上がった。
そのまま俺どころか隣の彼 ―こう太― を一瞥することなくその場から足早に去っていく。
慌てて俺も立ち上がると彼女の腕を掴んだ。
何事かとファミレス中の視線が集まるが気にはしない。
もとより、理代子の怒鳴り声がガンガン響いていて若干冷たい視線は浴びせられていたのだ、今更どうということはない。
「ちょぉ、待てよ理代子!」
「離してよ!もうアンタの顔なんて見たくない!」
「まだ話し合うことあるだろ?学校のこととか、育ててくれた…養育費?とか」
「いらないわよそんなもん!」
俺の手を振り払うと、伝票を掴んで鼻息荒く俺に投げつけた。
「これで十分よ!!」
呆気に取られていく俺を尻目に、乱暴にドアを開けるとファミレスから出て行った。
嵐から残された俺は、またもぼぉっと立ち尽くすばかりだった。
「あの…お客様、あまり騒がれますと他のお客様のご迷惑になりますので…」
店員のお兄ちゃんがオドオドしながら注意してきたので、俺はすみませんと頭を下げた。
ほんの数分のことだったというのにひどく疲れた。
座り直して対面にいる息子に向き合う。
彼は暗い顔でうつむいたままじっとコップを見つめていた。
その瞳は昔みた琉球ガラスのように真っ青で、俺は素直に綺麗な目ん玉だと思った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 203