アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
名前
-
*
心身共に疲弊し、起き上がるのも億劫になってる。
今日も男の手によってベッドに座らされ、腰に枕が当てられ、男の手で食事を食べさせられる。
男は、俺に朝食を食べさせると、額に口づけ去っていった。
「…」
手を見つめようとする。
実は、最近ぼんやりと輪郭が分かるようになってきた。視界は極端に狭く、フィルターを何重にもかけたような感じだが、それでも明暗しか分からなかった時に比べるとだいぶマシだ。
ただ、物と物の境界線はだいぶ曖昧だから、いまいち部屋の広さは分からない。男の姿形も見えない。
ギィ、と部屋の扉の音が鳴って、はっと顔を上げる。男が帰って来たのだろうか。
男はベッドに腰かけ、俺の頬に触れた。
でも、その感触に違和感を覚える。
触れ方とか、温度とか、質感とか…
違う。知らない。
「…っ、誰?」
避けるように体を離すと、かすかに笑い声が聞こえてきた。やっぱり知らない。誰だ。
「やっぱり蓮矢じゃないって分かるんだな」
「れんや…?」
「そう、蓮矢。花の蓮に、弓矢の矢で蓮矢、な。君を監禁してる奴の名前だけど、 知らなかった?」
こくり、と頷くと突然現れた男は面白そうに笑った。
「あー、じゃあ、聞かなかったことにして? 勝手なことしたって分かったら怒られちまう」
「…」
「俺は楠見 奏太(くすみ かなた)だ。奏でるに太い、で奏太。年齢は君より2個上かな」
「……奏太、さん」
俺を監禁している男の名前が分かったのは収穫かもしれない。ただ、名前を聞いてもやっぱり分からない。蓮矢という名前に心当たりがない。
「あ、それで俺が来た理由なんだけどさ、ちょっと診察に来た」
「診察…」
「そう。俺、一応医者の卵でね。医学部通ってるんだ。いそがしーい合間を縫ってやって来たのさ」
「…何でですか」
「蓮矢に頼まれてさ。君、2日くらい放置されてぐったりしたことあっただろう? その時の蓮矢の狼狽えぶりがすごくてさ。だからこうして診察にきたんだよ。あ、動かないで、ちょっと診させてもらうよ」
奏太は俺の目を中心に、問診を開始した。
健康診断を受けている気分だ。
「…もしかして、ちょっと見え始めてる?」
「…え…」
「んー…とりあえず段々見えるようにはなるかもね。前と同じようになるかは微妙だけど」
奏太は色々と呟きながら診察を終えた。
見えるように、なるんだ。
そうすればもしかしたら、この部屋から逃げ出すことできるかもしれない。
「蓮矢はさ」
「…?」
「君のことになると、ちょーっとぶっ飛んだことしちゃうみたいだけど、いい奴だよ」
「………」
監禁するような奴がいい奴であってたまるか。
喉元まで出かけた言葉をぐっと飲み込む。
「はは、まぁ信じろって言っても無理か。でも君が好きみたいでさ。これからどうするかは君次第だけど…」
近づいてくる気配がわかった。
耳元に口を近づけ、囁く。
「…逃げたくなったら、手伝ってあげるよ」
その言葉は、俺の心に迷いと不安の種をまいたような気がした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
12 / 103